整骨院の仕事帰りに駆け付けてくれた彰さん。大きめの白いシャツにオカッパ頭。浅黒くて目鼻立ちがはっきりしている濃い顔立ちだ。目はキラキラと輝いて、ときどき少年のような屈託のない笑顔を浮かべる。早口で、しかもマイペースな雰囲気を醸し出している独特な男性だ。
隣には、ちょっと心配そうな表情で彰さんを見ている久美子さんがいる。ロングヘアに眼鏡。好奇心旺盛で抜群に頭がいい女子高生がそのまま大人になったような印象を受ける。
彰さんは行動力もあるが、無駄なお金を使うことが何より嫌いだという。入会した2つの結婚相談所には数カ月で見切りをつけた。
「土日も仕事があるので、紹介された人と会う時間がないからです! 男女ともに複数の相手と同時並行して会うのが当たり前ですよね。初対面の人に『仕事が忙しい』なんて言っても信じてもらえないでしょう。もっと時間がある人が有利で、ほとんど時間のない僕はハンデを負っていることに気づきました!」
なぜかうれしそうに失敗談を話す彰さん。そのうちに婚活はやめてしまい、5年の歳月が流れる。
出会いは中国語の学習サークル
後に久美子さんと出会ったのは中国語の学習サークルだった。中国人の留学生が持ち回りで先生をしてくれる国際交流サークルのようなもので、授業料は2時間で1000円。投資好きで経済感覚が鋭敏な彰さんは飛びついたのだ。
「僕はラオスから中国に入り、そのまま雲南師範大学に通っていた経験があります。中国語を習っていると、そのときの楽しい思い出がよみがえるんですよ~。整骨院の仕事では中国語はまったく使いません!」
彰さんにインタビューしていると話がズレていきそうなので、隣で苦笑している久美子さんにバトンタッチしてもらおう。久美子さんは2014年にこのサークルに入った。会社派遣で中国に留学をしていた経験があり、将来的な中国駐在に向けて語学力を維持しておくという明確な目的があった。彰さんとは大違いである。
2人は同じクラスになり、久美子さんは先生からもクラスメイトからも見放されつつあった彰さんを見かける。先生は宿題を全員宛てにメールで送っているが、彰さんは「僕には届いていない!」と言い張るのだ。
「本当なのかな? もし私が転送してあげたら宿題をやるのかな、とまず思いました。そもそも宿題もやらないのならば授業に来なければいいのに……」
落第生の面倒を仕方なくみてあげる学級委員長的な発想である。彰さんは久美子さんの親切を喜び、宿題をやってくるときもあった。しかし、仕事が忙しいことを言い訳にして、授業は受けずにサークルの飲み会だけに参加したり、授業の前日にお酒を飲みすぎて宿題をやれなかったり。真面目な生徒とは言えない。久美子さんはそんな彼に宿題の答えを教えてあげたりして、2人のコミュニケーションは必然的に増えていった。
「そこまでしてくれるなんて優しいですよね~。あと、お酒はやっぱりよくないよね」
他人事のように話し始める彰さん。この軽さが心地よかったと久美子さんは証言する。
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