「宿題を教えてあげているお返しにと、ゴハンをご馳走になったんです。そのときに仕事で人間関係にちょっと悩んでいることも聞いてもらいました。安藤さん(※彰さんを指す)は良くも悪くも楽観的。『会社なんて上司も部下もそのうち異動になるんだから大丈夫だよ~』という意見です。私はつい悪い方向に考えてしまうので、一緒にいて楽だなと感じました」
余談になるが、フリーライターの筆者も工場勤務の妻から同じようなことを言われている。朝食後に身支度をしている妻の前で、筆者はソファで寝転んだりしているために、気楽な稼業に見えるらしい。原稿の書き出しを寝ながら考えているのだよ、と説明しても鼻で笑われる。笑いながら「大人がこんなふうに生きても許されるのか」と思って肩の力が抜けるらしい。お役に立てるなら本望だ。
彰さんと久美子さんの話に戻る。意気投合して付き合い始めた2人だが、彰さんが強く望んだ結婚に至るまでは2年半の時間がかかった。
期待をかけて育てた1人娘に対する母の気持ち
理由は2つある。1つは久美子さんは子どもがとくに欲しくなく、両親との実家暮らしが快適すぎたこと。結婚して別世帯を構えるメリットを感じなかったと久美子さんは淡々と答える。
もう1つの理由は、久美子さんの母親が彰さんに難色を示したことだ。久美子さんが代弁する。
「両親は高校時代からの同級生で25歳のときに結婚して、すぐに私が生まれました。まだ55歳です。私より14歳も年上で、稼ぎもよくない安藤さんにいい印象を持っていなかったのです。
偶然、路上で母と初めて会ったときは、彼は悪酔いしていてあいさつすらできなかったし……。『どうして東大にいるときに(学内で)相手を見つけてこなかったの?』と責められたこともあります(笑)。最低でも2年間は付き合ってから安藤さんの生活態度を見極めるように、と言われました」
期待をかけた1人娘への当然の心配と言える。久美子さんの話を聞きながら、なぜか彰さんまで深くうなずいている。
「お義母さんの気持ちはわかるよ~。僕もうちのかわいい娘が僕みたいな男と結婚するなんて言い出したら絶対に嫌だよ!」
彰さんは謙虚というよりも自意識が薄めなのかもしれない。結婚したら渋谷区内に住むこと、家事は半分以上を彰さんが負担すること、などを列挙した「婚前契約書」を久美子さんが突き付けても軽やかにサイン。久美子さんの母親に関しては、久美子さんが用意した想定問答集を使って準備をし、なんとか結婚の許しを得た。
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