アマゾンやめ「実店舗」で成功した49歳男の人生 「元通販のプロ」が実店舗にこだわった理由
「独立するなら自分にしかできないこと、世界でまだ誰もやっていないことをやろうと思った。そこでふっと落ちてきたのが“カセットテープ”でした」
音楽の受け取り方がストリーミング主流になる中で、アナログもアナログなカセットテープ販売。それも実店舗で。となると“どう考えても成り立たないビジネス”と語るのも不思議ではないが……。そこに勝算はあったのだろうか。
そう尋ねると「起業して絶対にビジネスが成功するという確信を持っている人は、おそらく誰一人いないでしょう」と微笑んだ。
「起業した6割が1年以内に、8割は3年以内に倒産するというデータがあります。うまいことやれそうな事業計画を作ることはできても、実際は行動するまでわからない。ただ話題になるだろうという自信はありました。
自分が好きだからこそ、カセットに夢中になる人が世界中にいることは知っていたし、日本のカセットテープカルチャーが世界に遅れをとっていることも理解していたんです」
事業計画を考え始めたら、はやる気持ちがとまらなくなった。決意してからは早かったという。周囲の人にも別段、相談はしなかった。
「僕の人生ですし、世界で誰もやってないことをやろうとしているわけだから……。角田はどうしちゃったんだ!? って心配はされましたけどね(笑)。妻さえ理解してくれればいいかなと思いました」
退職後5カ月で店をオープン
2015年3月、アマゾンを退職。44歳だった。ひと月後には法人化し、もともと工場だったという貸し倉庫を店舗にすることを決めた。中目黒を選んだ理由はとてもシンプルなものだ。
「生まれも育ちもこの辺なんです。いい物件にめぐり会えたことも大きかったですね。倉庫として貸し出されていた場所だったので、賃料が安く抑えられた」
オープンに際していちばん大変だったことは?と聞くと、苦笑する。
「とにかく値付けです。一つひとつ商品をパッキングして値段をつけて……これを店内すべてのカセットテープにやるんですから。妻と何日かかるの!って嘆きました。徹夜も1日じゃ足らなかった」
そんな苦労も、今となっては笑い話だ。こうして2015年8月、お盆のど真ん中に、角田さんのお店は静かにオープンした。ホームページもSNSでの宣伝もない。なにも営業活動をしない中でのひっそりとした開店だった。