崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人

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崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人


過去60年は“不幸な成功” 自由闊達と自分勝手は違う--中鉢良治・ソニー社長
崖っ縁のソニー 《現役社員&OB座談会》研究者が社内で営業活動、目利きが経営層にいない

憂鬱な空気に包まれてソニーの新年は始まった。1月19日、品川の新高輪プリンスホテル。株主総会の会場でもあるこの場所で、恒例のサプライヤー・コンファレンスが開かれた。取引関係の深い電子部品メーカーなど600社を招き、ソニーのトップとエレクトロニクス(以下エレキ)関連の各事業部門長が顔をそろえる。ソニーと一蓮托生のサプライヤーにとっては一年の方向性をつかむ重要な会合だ。だが、今年の会合は様子が違った。

あいさつに立った中鉢良治社長は、表現を選ぶような慎重な口調で語った。「昨秋からソニーは大きな地震に襲われたような状態です。消費減退で出荷が減り、サプライヤーにも発注キャンセルでずいぶんご迷惑をかけました。ただ、ピンチはチャンスでもあります。ともに難局を乗り越え、再び大きく成長しようではありませんか」。

その一方で、例年ならソフトとハードの融合を熱く語っていたハワード・ストリンガー会長の姿は、この日の会場になかった。開場と同時ににぎにぎしく上映されてきたソニー・ピクチャーズエンタテインメントのハリウッド映画も、今年は休憩時間の短い上映にとどめられた。

「華やかで国際的なムードの例年とは異なり、今回は典型的な日本企業の賀詞交換会といったふう。ソニーが日本の製造業であることを改めて強調したいかのようだった」。参加した半導体メーカー関係者は言う。無理もない。コンファレンスの1週間前、ソニーが14年ぶりに営業赤字に転落するとの報道が新聞紙面に躍った矢先。部品メーカーは動揺したままでコンファレンスに集まっている。ソニーは“日本の製造業”として一体感を共有することで、サプライヤーの不安感を払拭しようとしたのだろう。

米国を中心とする急速な消費減退は、日本の電機メーカーを軒並み打ちのめしている。パナソニック、東芝、三洋電機--世界同時不況のあおりで主要メーカーが次々と業績を後退させた。だが、ソニーのように、絶頂から谷底へ鋭角に転げ落ちた企業はほかに見当たらない。

2008年3月期、ソニーは前期比6・6倍となる4752億円もの営業利益をたたきだした。過去3年間、ストリンガー・中鉢の新経営体制が人員削減や生産設備売却などでエレキ部門の構造改革を断行した成果。そう高らかにエレキの復活が宣言されたのはわずか8カ月前だ。それが、激しい円高と、液晶テレビやデジタルカメラなど主軸製品の価格下落による採算悪化で、一転、再び低迷に追い込まれた。

ソニーは従業員1万6000人の人員削減、複数の不採算事業からの撤退、国内外工場の約1割の閉鎖を骨子とするエレキ立て直し策に着手した。人と生産にかかる固定費を削減することで浮上を図る計画で、エレキ事業全体では09年度末までに年1000億円の費用削減を目指す。社員にとっては、出井伸之・前会長時代からの6年間で、実に3度目のリストラ期を迎えることになる。

繰り返される構造改革とリストラ。はたしてソニーが直面している課題は、経済環境の暗転だけなのだろうか。ストリンガー会長は昨年10月末、四半期に一度日本で開かれる全社会議の席上で、危機感をあらわにした。「現在の状況となる前から、コアビジネスであるエレキの基盤は揺らぎ始めていた。壊れたエレキの構造を今回こそ根本から再構築しなければ、ソニーという船は沈む」。いったいソニーのエレキの何が揺らいでいるのか。

ipodに敗北宣言 狂ったヒットの周期

冒頭のコンファレンスに先立つ16日。ある“敗北宣言”がひそかに発表された。「“iPod王国”に今後、ウォークマンは戦いを挑まない」。オーディオ・ビデオ事業本部の新年キックオフ会議で、事業部門の幹部がそう明らかにした。

 携帯オーディオプレーヤー市場で今や世界6割のシェアを握る米アップルのiPod。ウォークマンはiPodを追撃し、2割のシェアを獲得することを旗印に世界展開してきた。だが、シェアの差は広がりこそすれ縮まることがなかった。今回の宣言で、今後ソニーは米英などiPodが圧倒的に強い市場には、ウォークマンの新製品を大々的に投入しない公算だ。当面ウォークマンの市場と位置づけられるのは、シェアが比較的高い日本と、アップルの展開が遅れている中国など新興国に限られる。

同時に、米国だけで販売してきたiPod・iPhone接続型のスピーカーや目覚まし時計(写真)、ヘッドフォンなどを、日本を含む各国市場で順次発売する。これまで打倒すべきライバルと位置づけてきたiPodが、今後は部分的ながらもソニーのビジネスの拠り所となるのだ。カセットテープ時代のソニー製ウォークマンのように、デジタル時代における携帯オーディオのデファクトスタンダードとなったiPod。それを打ち破るヒット商品を、ソニーはついに生み出せなかった。

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