崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人


 だがここまでの事業規模にもかかわらず、テレビ事業は08年3月期に730億円の赤字を計上し、09年3月期も黒字化は至難。なぜならば、ソニーよりつねに速く、安く、そして世界の隅々にまで製品をバラまくサムスンが目の前に立ちはだかり、体力消耗戦を迫っているからだ。

「製品価格を48時間以内に決定する」「製品の型を大胆に横展開し、派生モデルを短期間で設計している」「世界7カ所に550人の工業デザイナーを抱え、デザインには惜しみなく力を注いでいる」。サムスンの戦略は、いずれも単純ながら、ソニーが試みたことのない手法である。追い詰められたソニーは、なりふり構わずこの戦略に飛びついた。

インド市場をソニーの“虎”が疾走した--。08年11月、ソニーはインドの主要都市でローカル専用モデルを発売した。インド・豪州では、サムスンが3割、LG電子が2割弱と韓国ブランドが市場の半分を占めてきた。韓国2強に対する戦略機種として、タイガー・プロジェクトという名の下で開発された19~32インチ機種「タイプT」は、音楽が最大の娯楽であるインドのライフスタイルに焦点を当てた。

画面の下には大型のウーファー(低音域スピーカー)。テレビを見ないときは、ラジオを聴くことができる。先進国向けでソニーがこだわってきた薄さや高画質を極める最新技術とは対極の、汎用技術を使った製品設計。この機種が都市によっては、サムスンの競合機種を上回る台数を売り上げた。しかも、このヒット機種は1年足らずという異例の速さで製品化された。

テレビ事業本部の吉岡浩本部長は事業を立て直す最大の改革として、開発から販売までの驚異的な短縮化を図ろうとしている。10年度の目標値は1モデル9カ月。07年度比ほぼ半分に圧縮する。メリットは、競合メーカーより速く機種が投入できるだけではない。短期間で価格が下落する液晶パネルを長く抱え込み、コスト上の制約を受けるような事態を回避できる。

ソニーの胎内で長く育成した独自技術よりも、ビジネスオペレーションの速さのほうがカネを生むという判断だ。確かに目先の成果は上がるだろう。しかし、これが、ソニーの復活策といえるのだろうか。

サクセスフルな時代の終焉 ソニーの輝きは過去のものか

08年11月27日。創業者の故・井深大氏の生誕100年を祝うイベントが、東京丸の内でOB有志の手により開かれた。会場には井深・盛田(昭夫氏)両創業者の薫陶を受け、ヒット商品が次々と花開いた時代を肌で知るOBと、一部の現役社員が集まった。大賀典雄相談役、久夛良木氏の姿もあった。

会の終盤。現役社員にマイクが渡され、OBに意見を求める一幕があり、「井深さんなら今のソニーにどうアドバイスするだろうか」という問いが飛び出した。「18万人の社員がいる現在と井深さんの時代は違いすぎる。残念ながら答えは考えられません」。OBの1人は複雑な表情で、そう答えた。

井深・盛田のイノベーションスピリット、脇を固める独創的なエンジニア、周期的に現れるヒット商品。OB、現役社員だけでなく日本人の多くが描くこんなソニーの像は、はるか昔の物語となってしまったのか。

「過去60年のサクセスフルな時代から、新しい時代への結節点に来ている。私の使命は次のマネジメントにインフラを整えてあげることだ」。中鉢社長はそう語る。赤字の危機に陥った現経営陣にできることは限られる。次期社長候補として名前が挙がる幹部らの中に、ヒット商品の“目利き”ができるというイメージの人物はいない。ソニーの未来が再び輝きを取り戻す日は、いつ来るのだろうか。

(週刊東洋経済 =杉本りうこ 撮影:尾形文繁)


過去60年は“不幸な成功” 自由闊達と自分勝手は違う--中鉢良治・ソニー社長
崖っ縁のソニー 《現役社員&OB座談会》研究者が社内で営業活動、目利きが経営層にいない

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