混沌たる世界を「アニメ」はどう変えられるのか トンコハウスの堤監督とコンドウ監督に聞く

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コンドウ:これまで僕とダイス(堤監督のニックネーム)はすべてを一緒にやってきていたけれど、最近は今回の映画祭のように、それぞれが別々に、独立した仕事も手がけるようになってきています。映画祭を実際にやってみて、5年間で自分たちがどれだけ成長したか、大きくなったかを実感したし、今後どうやって成長していくかというヒントも得られました。

──堤監督は過去のインタビューで、「リスクを取ること、ミスをすることを恐れるな」と話しています。

:トンコハウスを始めること自体、非常に大きなリスクテイクで、ピクサーの扉を出た途端、安心感というものは失われました。それ以降、誰と働くか、どんなプロジェクトをやるか、すべてがリスクテイキングです。慣れていないことや、やり方すらわからないことにも挑戦しなければならなくなりました。

「ベルリン国際映画祭」で公式上映され、世界中の国際映画祭で20以上もの賞を獲得した「ダム・キーパー」は今年3月、絵本にもなった

この5年間でミスもたくさんしてきました。ロバートも僕も、トンコハウスを始めるまでは、成功していたといえるし、成し遂げてきた仕事もうまくいっていました。トンコハウスでは明らかにミスだと言えることや、やるべきではなかったこともあったけれど、後悔はしていません。僕らがしてきたのは、自分たちの将来に、直接的に影響を与えるという点で「本当に学ぶことができた本当の失敗」だといえます。

ピクサーでは、どんなミスをしたとしても、それをサポートしてくれるシステムがありました。文化的にも財政的にも。そういう意味では、失敗はどれも深刻でも、致命的なものではなかった。一方、トンコハウスでのミスは、僕たちを財政的に厳しい状況に追いやることもありました。そのおかげで、ミスをすることの結果がどういうことかを身をもって知ることができたわけです。

コンドウ:リスクというのは結構トリッキーな言葉だと思います。だって道を歩いているだけでも、リスクはそこら中にあるのだから。ただ普通はそれをリスクだと認識していないだけです。多くの人は、自分たちがどの程度のリスクを負って生きているかを認識していないのです。

Robert Kondo/南カリフォルニア出身。ロサンジェルス近郊のアートセンター・カレッジ・オブ・デザインを卒業。2006年、憧れていたピクサーでスケッチ・アーティストとして『レミーのおいしいレストラン』の制作に携わる。その後、背景美術監督として『レミーのおいしいレストラン』『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』を手がける。2014年7月ピクサーを去り、トンコハウスを設立した(撮影:吉濱篤志)

一方、僕たちはピクサーを離れてトンコハウスを始めたとき、2人で共にどんなリスクを取ることになるのかを認識していました。僕たちは、他の人たちより大きなリスクを取っているのではなく、どんなリスクがあるのかを考えた、ということだと思います。同時に、そのリスクを取ることで、何を得られるかも考えました。僕たちのまわりの人やコミュニティーに、世界に影響を与えるには、どんなリスクを取る必要があるのかも。

ピクサーは居心地のいいところで、そのまま楽しく働き続けることもできました。ただ、人生には限りがあります。時間は限られている、というリスクを多くの人は認識していません。限りある時間を、自分の思うように使えないことがリスクだと僕は思います。

この5年間は、物事をどう見るか、リスクをどう見るか、ミスをどう見るか、そして、そうしたリスクやミスをどうやって受け入れるかを学ぶ旅でした。それが成長にもつながっています。

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