日本人にはまず作れない「東京ガイド」の中身 東京愛にあふれた英国人が自費出版で制作
11月上旬、午前10時前。東京・渋谷にあるその喫茶店の前では、5人ほどの外国人の男女が雨の中、店の中をのぞき込もうとしている。話す言葉を聞いていると、どうやらイタリア人らしい。
「茶亭羽當(はとう)」。渋谷駅から徒歩5分ほど、比較的静かな地域にあるこの喫茶店には、いまや世界中から人が押し寄せている。壁一面に並んだアンティーク調のコーヒーカップや、コーヒーを黙々といれるマスター、店の中央に大胆に生けられた季節の花――。確かにインスタグラム映えのする外国人の好きそうな「アイテム」がそろう。取材に訪れた日も、10時の開店と同時に前で待っていたイタリア人が入店。しばらくすると、中国人と思わしきカップルやグループが訪れ、30分もすると店は外国人観光客だらけになった。
東京愛が詰まったガイド本
日本に住んで15年になる旅行コンサルタント、英国人のチャールズ・スプレックリー氏が、東京のガイドブック『People Make Places』を出版しようと思いついたのもこの店だった。今年1月に自費出版したこの本には、パン屋や居酒屋、カフェや美術館、ファッションデザイナーなどスプレックリー氏厳選の東京で今一番紹介したいものが詰まっている。
が、この本を単なるガイド本と表現するのは無理がある。まずなんと言ってもデカくて、重い。そしてめくって驚くのが写真やレイアウトの美しさ。正直、ガイド本というより、写真集かデザインブックのようだ。加えて、書いてあるのは通り一遍の店の紹介ではなく、その店を切り盛りする人のバックグラウンドや思いだ。価格はなんと6500円。おそらくこの本を読みこなせるのは、東京に何度も足を運んでいたり、東京に住んでいたりするようなディープな東京ラバーじゃないだろうか。
外国人向けのガイド本あまたあれど、ここまで凝った作りは珍しい。「自分の貯金だけで、3年間かけて作った」というスプレックリー氏。なぜそこまでしてこの本を作ろうと思ったのだろうか。
きっかけは2011年までさかのぼる。
投資家や王族など富裕層の外国人向けにカスタムメイドの旅行計画を立てるビー・ビスポークの代表を務めるスプレックリー氏だが、東日本大震災後、ぱたりと仕事がなくなってしまった。そこで思いついたのが、ガイド本だった。が、走り出そうにも具体的なアイデアがなかなか出てこない。
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