日本人にはまず作れない「東京ガイド」の中身 東京愛にあふれた英国人が自費出版で制作
人に焦点を当てることで、スプレックリー氏が見せたかったのは、表面的ではない日本の素顔だ。電車や街に外国語の標識が増えたとはいえ、多くの外国人にとって言葉や文化の違いから、日本はいまだになかなか「中に入り込めない国」だ。観光で訪れた場合、ホテルや店の人と少し話す機会があったとしても、じっくり日本人とコミュニケーションをとって、日本文化を体験し尽くすというのは難しい。
そこで、いろいろな作り手がどんな思いを持って商品を作っているかを描くことによって、観光客たちが手にする商品や、口にする食べ物にもストーリーがあるというのを、知ってもらいたいという。
作るのには3年かかった
東日本大震災後に着想を得たプロジェクトは、「当初は1年半程度で終わらせるつもりだった」(スプレックリー氏)が、実際に動き出してから作り上げるまで3年かかった。ひとつは、この本にかかわっていた全員が、ほかに仕事を持っていたため、そしてもうひとつは、スプレックリー氏以外、カメラマンはオーストラリア、編集者は英国、ブックデザイナーはシンガポール、と全員が海外に住んでいたという超グローバルなプロジェクトだったからである。校了作業をしようにも、一同が会せる機会がないため、「普通だったら数週間でできるようなことも、半年近くかかった」という。
当初は、100件程度を掲載するつもりだったが、最終的には48件に落ち着いた。3年にも渡ったプロジェクトだったため、途中で店が閉店したり、連絡が着かなくなってしまった人がいたためだ。写真が良くない、文章が今ひとつ、というのも削っていった。
初回出版は2500部。SNSや口コミでじわじわと広がっているほか、最近、蔦屋書店でも取り扱いが始まった。香港やロンドンの書店にも置かれている。最初に、手に取ってくれたのは、出版やウェブなどのデザイナーたち。それに日本を訪れる旅行者が続いた。現在残りは250部ほど。「当初は収支トントンになればいいと思っていたが、結局は若干持ち出しが多くなりそう」とスプレックリー氏は話すが、このプロジェクトをここで終わらせるつもりは毛頭ない。
本の発売と同時にスマホ用アプリの配信も始めており、アプリ向けには毎月2件ずつ新しい店の情報をアップしている。今後は、本とアプリの日本語版を投入する計画のほか、東京以外の都市や地方版も投入したいと考えている。スプレックリー氏にとって、東京や日本はまだ紹介したい人にあふれているのだ。
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