混沌たる世界を「アニメ」はどう変えられるのか トンコハウスの堤監督とコンドウ監督に聞く

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トンコハウスを立ち上げてからというもの、自分たちの映画を作ったり、展示会をやったりすることで忙しかったけれど、過去には僕個人のプロジェクトとして「スケッチトラベル」というのをやったことがあります。ロバートや知り合いのアーティストが大勢参加したこのプロジェクトを通じてコミュニティーができ、僕らはこのコミュニティーからものすごいインスピレーションを得た。今回の映画祭も、上映やワークショップを通じて多くの人を「つなげる」ことが目的です。

問題について話すきっかけを作れるかも

──この5年でアメリカ社会も大きく変わりました。トランプ大統領が誕生し、トンコハウスのあるカリフォルニア州では特に格差が拡大しています。こうした社会状況の変化は、作品にどんな影響を与えていますか。

:実際に「アメリカ中のリベラルが住んでいる」といわれるベイエリアでさえ貧富の差は生じています。大学を卒業したばかりで自分の一生で使い切れないほどのお金を稼いでいる若者がいる一方で、フルタイムや2つの仕事を掛け持ちしてもアパート代さえ払えないような人たちがいる。それでも、ベイエリアは外からは、政府に批判的な地域とひとくくりにされがちです。

これは、今世界中で起こっていることの象徴といえます。世の中は「君は右で、僕は左」というほど単純ではない。例えば、政治的にはある政党を支持していたとしても、自分の実際の行動がその政策や方針に沿っていないこともあるし、その行動が今世界で起こっていることに、結果的に関与しているということも少なからずあります。

東京・新宿で開催中の「トンコハウス映画祭」では、バークリーにある2人の作業場の様子が詳細に再現されている(撮影:吉濱篤志)

ベイエリアで今起こっていることは恐ろしいことで、こうした状況はもちろん、僕たちに何ができるのか、と考えるきっかけになっています。アニメを通じて何ができるかは定かではありません。ただ、他の人が何か行動を起こす前に、「自分たちの人生において何が大切か」を見つめ直し、その問いに僕たちなりに答える、ということができると思います。

ロバートも僕も子どもがいますが、子どもたちが成長していくのにどういう支援ができるのか。僕らにはストーリーやキャラクターを作ることができる。これを通じて、子どもだけでなく、大人の好奇心もかき立てられるかもしれないし、世の中の問題を話すきっかけになるかもしれません。

コンドウ:今起こっている政治的環境変化は、僕たちをより、「自分たちにとって意味のある仕事をすること」に向かわせています。世界がより複雑になり、より分断されている中で、自分たちのミッションはアニメやイベントを通じて、より多くの人に好奇心を持ってもらうことにあると思います。

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