海賊被害が急拡大するソマリア沖、海自派遣は焼け石に水

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アフリカ東部のソマリア沖・アデン湾で海賊被害が急増している。国際海事局(IMB)によれば、この海域で2008年に起きた海賊事件は111件と前年に比べて3倍近く増えた。このうち海賊に乗っ取られたのは42隻。815人の乗組員が人質になり、今もなお200人以上がソマリア沖に拘束されている(下表参照)。

日本籍船のほか、日本人乗組員が1人でもいる船、日本の荷物を運ぶ船などのいわゆる“日本関連船”は、08年に12隻が発砲を受けるなどの海賊事件に遭遇した。うち5隻が乗っ取られ、前年比で約5倍の105人が人質となった。

ロケット武装した海賊 年800億円の費用増

ソマリアの海賊はロケットランチャーなど重火器で武装。船外機をつけただけの簡単な小舟で標的に近づき、縄ばしごを甲板に投げ入れるなどし白昼堂々、無断乗船。「他国の船に漁場を荒らされた」ことを大義名分に身代金を要求する。身代金の相場は2億円台という。

彼らは乗っ取った船をソマリア東岸の港町に拘留して身代金を要求した先からの返事を待つ。発生から2週間であっさり解決した事件もあれば、身代金の額や受け渡し方法で折り合わず、乗組員を200日以上拘留したこともある。

海運会社など乗っ取られた船の関係者は、通信衛星で自船の存在を確認。弁護士など専門のネゴシエーター(交渉人)集団を雇い、犯人との現金の受け渡しのためにヘリコプターを借り受ける。それぞれが高額で、事件解決までには身代金と同額の費用がかかり、「身代金を含めて海賊事件の解決に1件当たり平均5億円かかる」(宮原耕治・日本郵船社長)。

アデン湾の先には紅海、その先には東西貿易の要・スエズ運河がある。アデン湾を航行する船の10隻に1隻、年間延べ2000隻は日本関連船だ。アデン湾を通過するのに1.5~2日かかることから、常時10~12隻の日本関連船がアデン湾上に存在する計算になる。

アデン湾を回避し、アフリカ大陸の南端・喜望峰に迂回すると航海日数が6~10日間も増え、「2000隻で年間約800億円の費用増になる。紅海沿岸に向かう船などアデン湾を回避したくともできない船が年間数十隻ある」(日本船主協会長の前川弘幸・川崎汽船社長)。

身代金の要求が巨額に 海自派遣は焼け石に水

ソマリアでは、隣国・エチオピアが後ろ盾となる「暫定連邦政府」と、さらにその隣国・エリトリアをバックにした「ソマリア再解放連盟」という2大勢力の内紛が絶えない。これに古くからある無数の小氏族の対立が覆いかぶさる「失敗国家」にあって、「内紛に飽き飽きした若者の目にとって、海賊はあこがれのベンチャービジネスと映る」(大手海運幹部)。 

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