54歳「京大中退」の彼が漫画家人生を選んだ理由 村上たかしの「星守る犬」はこうして生まれた

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父親は

「今度作品が、映画になるらしいな。知ってるか知らんが今、ワシ作詞家をやってるんや。主題歌をワシに任せてみいへんか?」

しかも歌を歌える犬がいるので、歌わせたいとも言われた。

「これはらちが明かないなと思って、

『もう主題歌は平井堅が歌うことに決まってんねん』

って言いました。すると

『え? 何犬が歌うんだって?』

って答えが返ってきました(笑)。

これはダメだって思いましたね。

父親は面白いのは面白いんですけどね。あんまり近寄ってしまうと実害があります。だから今は極力関わらないようにしてますね」

『星守る犬』のヒットにより経済的に回復した。ストーリー漫画の仕事も来るようになった。

「名刺代わりになるような作品になったので、声をかけていただけるようになりました。ただ出版不況で本が売れなくなってますから。今後も漫画を描いていくのか、他のことにシフトしていくのか、現在老後のライフプランを考えています」

現在は『ビッグコミックオリジナル』増刊号でのストーリー漫画『探偵見習い アキオ』の連載など漫画の仕事をしつつ、比治山大学短期大学部美術科で教鞭をとっている。

“歪み”や“ひずみ”が武器に

「インターネット時代になって発表する場が増えたので、漫画家にはなりやすくなりました。ただ食べていける人は一握りですね。クリティカルにヒットするものを描かないと生き残れない時代だと思います」

そもそもはマジメなサラリーマンを目指していた村上さんだが、漫画家として過ごした半生に満足しているのだろうか?

「今思えば僕にはサラリーマンはつとまらなかったと思います。僕には非常識なところや、感覚的におかしなところがあるんです。それを取り繕って生きてきました。

『星守る犬』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

他人の言動を見て『こうしておけばいいんだな』って真似して切り抜けてきました。つまり自分の“歪み”や“ひずみ”をごまかしながら生きているんです。そういうのってふとしたときに見抜かれます。サラリーマンをしていたらどこかで大きな失敗をしていたと思います。

幸い漫画家になったので“歪み”や“ひずみ”が武器になっています。“歪み”や“ひずみ”があるおかげで、普通の人とは違う変な感想を持ったり、想像をしたりできますからね」

村上さんにはこれからも、人々が感動するストーリー漫画を、そして抱腹絶倒するギャグ漫画を描き続けてほしいと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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