54歳「京大中退」の彼が漫画家人生を選んだ理由

村上たかしの「星守る犬」はこうして生まれた

村上さんは

「僕に、ストーリー漫画が描けますかね?」

と尋ねた。編集者は

「描けますよ」

と答えた。

「それならば描こうと思いました。そして、描いたのが『星守る犬』でした。

『星守る犬』は大阪に暮らしていた頃に体験した、あるエピソードが基になっています」

印象に残っていた電光掲示板のあるニュース

梅田1丁目に建つ大阪マルビルには、かつて電光掲示板が設置されていた。電光掲示板には定期的にその日に起きたニュースが流れていた。

ある日、村上さんがビルを見上げると

『廃棄車両の中に男性の遺体 足元には犬の遺体も』
というニュースが流れた。

「そのニュースがずっと印象に残っていたんですよね。電光掲示板のニュースですから、文字数は少ないわけです。少ない文字数で書くなら『廃棄車両は盗難車』でも『男性の死因は不明』でもいいのに『足元には犬の遺体も』と書いた人の気持ちが伝わったんでしょうか?

その後東広島市の自然が豊かな場所に引っ越してきたとき、もしこの中の野原の中に廃棄車両があってそこで亡くなったとするなら、その最期は幸せだったんじゃないかな?と思いました。そこには男性と犬の、誰にも邪魔されない純粋な時間があったはずです。

ストーリー漫画を描くことになって、ふとこの事件を思い出しました」

掲載されると、大きな反響を呼んだ。掲載された原稿の枚数では、単行本1冊には満たない量だったので、もう1話書き足して出版することになった。

表紙は、一面のひまわり畑の中に、ハッピー(犬)がいるという印象深い表紙になった。

「本を作る前に書店員さんに忌憚のない意見を聞かせてくださいと言ったら、『オッサンの絵はいらん』って言われたんです(笑)。あまりに忌憚のなさすぎる意見ですけど。それで表紙はひまわりと犬だけにしました」

作品は大きな話題になり、すぐに映画化されることにもなった。そんなとき、すでに縁を切っていた父親から電話がかかってきた。

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