「髪をむしるほど過酷」な中学受験の壮絶結末 家庭教師1本に絞った母子が歩んだ「茨の道」

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何とか受験を終え、やっと冷静になったという愛さん。あの家庭教師のチラシにあった驚異的な合格率も、もともと生徒数が少ないために高めにはじき出されたものではと思うようになった。個人塾でもよい指導をする塾は当然存在するが、大手の塾と違い、外部から得られる情報については、圧倒的に少ない。そこにリスクがある場合もある。

「成績が上がっているからといって、暴力的な言動ばかりをしていたあの先生に子どもを預けるべきではなかったんです。室長や講師が数人在籍している塾ならば、担当講師に何か異常を感じれば、室長などに伝えて指導方法が間違っていないかと相談することもできますが、個人塾の場合、どこにも相談できる場所がありません。ただただ、その先生の指導に従うしかなかった。

あのまま日能研にお世話になっていれば、全落ちなんてことにはならなかったかもしれない、はげるほど追いつめられることもなかったかもしれないと、受験を終えた今でも思いは複雑です。

時々、母親の方で、「『自分が働いているから十分に受験を見てやれない』と言う方がいますけれど、私のような専業主婦でしっかりサポートできる状態であってもこれですから。何が正解かなんてわかりませんよね、本当に……」

保護者にとって、塾以外に頼れる場所など存在しない

迷う気持ちはよくわかる。智樹くんは長男だが、一人目の子育てで、すべてが手探りの親にとって、受験のベテランである指導者の声は、よくも悪くも大きく働く。

日本では中学は義務教育であり、私立などを受験する道を選ぶのは個人の選択だ。だから、学校も教育委員会も頼ることはできない。つまり、保護者にとっては塾以外に頼れる場所など存在しない。塾講師の発言が保護者や子どもの拠り所となるのは特別なことではないだろう。これが中学受験の現状だ。

だからこそ、親はいかに確かな情報を手に入れるか。子を託す指導者を見極める目を持てるかが極めて重要になる。だが、それは言うほどたやすくはない。「まさかうちが」ということが、中学受験という特殊な世界の中、さまざまな家庭で十分に起こりうる。田中家のケースは、そのことを私たちに教えてくれる。

田中家の場合、せめてもの救いは、今通っている学校に息子が慣れてくれたことだ。

「まさか、寮生活になるなんて思ってもいませんでした。けれど、おとなしいタイプの彼の自立を促すには、寮生活でよかったのかもしれないと、親子ともに今は思っています」

つらい経験を丁寧に、冷静に振り返りつつ、前を向き、息子を見守る愛さん。一連の経験が、この母子にとっても将来への糧になることを願ってやまない。

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。 
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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