「髪をむしるほど過酷」な中学受験の壮絶結末

家庭教師1本に絞った母子が歩んだ「茨の道」

思うような成績を取れなくなったのは小4になってから。理科と社会の勉強が始まった頃のことだという。

「ランランラン 一番うしろは崖っぷち 一番ま〜えはクラスアップ……」

同じ塾に通う子どもたちの間で、こんな歌が作られて口ずさまれるようになっていた。塾での友だち、“塾友”との関係が良好だった智樹くんも、周りの子と一緒に無邪気にこの歌を口ずさんでいた。

一番前の席がそのクラスにおける成績トップ集団。一番後ろの席は次のテストの出来が悪ければ、一つ下のクラスに落とされる。そのことをこの歌は意味していた。

「塾の先生は“やめなさい”って注意していましたけれど、別に悲壮感はなくて、明るく口ずさんでいました」(愛さん)

親子に芽生えた“上を目指したい”という欲

成績が“見える化”されているこうした塾では、塾友は仲間でありライバルだ。その意識は通塾により自然に作り出されていく。

学習量が増えるに伴い、成績が伸び悩んだという智樹くんだが、それでも塾での模試の偏差値は50台後半から60台とまずまずをキープした。だが、この状況がかえって受験熱を加速させることになったのかもしれない。

「まだ4年生でしたから、頑張れば、もう少し上に上れるのではと、本人も私も思ったのです」(愛さん)

また、母親の愛さんによれば、本人の希望と環境的要因も大きかったという。自宅のあるエリアでは、受験をして入る中学校の数は限られていた。首都圏の場合、中学受験をして入る学校への通学時間として、1時間は十分に通学圏内といわれる。智樹くんの場合も、その範囲まで考えれば、いろいろな志望校候補が考えられた。

だが、体力がなく、どちらかといえば気弱なタイプの智樹くん。「あの満員電車に揺られて1時間もかけて通うのは僕にはできない……」そんな気持ちがあったという。

体力的にも無理のない、比較的通学時間が短い学校――この条件に合う学校は、当時の智樹くんの偏差値では届かない。でも「あと少しで、手が届く」そんな状況だったのだ。ある日、そんな田中家のポストに1枚のチラシが舞い込んできた。

――「〇〇中学合格者80%!」「中学入試専門の家庭教師」
「塾の成績が上がらない」「塾の宿題がやりきれない」「算数専門の家庭教師」――

チラシには目当ての学校の名前が大きく書かれていた。しかも掲げられていたのは80%という高い合格率。受験において算数は要になる科目だ。智樹くんの場合も、算数の成績が上がれば、間違いなく希望の学校の合格ラインに乗れる。そんな思いが親子の頭をかすめたのだ。金額は1時間あたり6000円。息子は「やってみたい」と言ってきた。

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