「髪をむしるほど過酷」な中学受験の壮絶結末 家庭教師1本に絞った母子が歩んだ「茨の道」

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「僕、塾で上のクラスに上がりたい」

普段は競争心など見えない智樹くんが、はっきりとそう答えた。息子の言葉に押され、愛さんはこの家庭教師に連絡を入れた。

話を聞くに、首都圏では名の知れた塾の講師として働いた後、個人経営のプロ家庭教師を始めたというこの講師。日能研の宿題のサポートをはじめ、塾の勉強の予習復習を含めて「面倒を見ますよ」との講師の言葉は、親子にとってとても心強く感じられた。

講師は続けてこうも話した。「この状態ならば何も問題ありません。絶対に受かります!」母親の愛さんはその言葉を信じて、お願いすることに決めたのだ。だが、違和感は「初回の授業からあった」という。

怒鳴るような声で教える高圧講師

「コラ!やる気あんのかぁ!」

ドン。講師の先生と2人きりになる息子の部屋からは、時折凄みの効いた声と共に何かを蹴るような音がした。「受講説明の時にはそんな荒々しい様子は見られなかったですし、この時はもう、“この先生にお願いすれば必ず合格できるんだ”という気持ちばかりが先立っていたので、あの指導は息子が本気を見せないから、先生が活を入れてくれているのだと思っていました」。

厳しく叱ってくれるのも自分を鍛えるためなのだ。智樹くん自身もそう思うようになっていた。「先生、ちょっと、怖くない?」母親の愛さんが声をかけても「うぅん、ちょっと……」と言うだけ。やめたいとは決して言わないため、そのまま指導をお願いした。

だが、高圧的な指導はその後も毎回のように続く。「また間違えてる!」「ここはこうだ!」。ドン。「何回やったらわかるんだ」。ノートを叩きつけるような音がすることもあり、指導が穏やかになることはなかった。だが、息子も相変わらず「先生ともう少しやってみる」と言うばかり。

「実際、この先生についてから、成績が上がり出したんです。クラスも最上位クラスに食い込みだして……。結果がついてこなければ、私もすぐにやめさせていたと思うのですが、結果が出てきていましたから……」

しかし、成績とは裏腹に、ストレスは着実に智樹くんに蓄積されていた。

家庭教師をお願いしてからも日能研への通塾は続けていた智樹君。小4の夏休み前になると塾では夏期講習の話が出始めていた。だが、家庭教師からも誘いを受けることになる。「自分が開く夏期講座にこないか」。この夏にグンと成績を上げたいと思った田中親子にとっては大きな選択の時となった。

「日能研にはすごくお世話になっていましたし、先生もフレンドリーでいい方が多かったのですが、自習室があるといっても自分で勉強を進めるだけでした。宿題があっても丸をつけて返してくれるだけ。一人ひとりに“ここがこう違うから間違えるんだ”という細かな指導は望めませんでした。

でも、この個人家庭教師の先生は、ノートのとり方にいたるまで、とにかく細かい部分までチェックしてくださいました。自分で進めていく力がまだ弱いうちの子には、手取り足取り教えてくれる個人家庭教師の先生が開く講座のほうがいい気がしてしまったのです」

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