医師の診断は、注意欠如多動性障害(ADHD)に自閉症スペクトラム(ASD)を併せ持っているとのことだった。
発達障害はいくつか種類があるが、大きくは「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」の3つに分類される。どの種類の発達障害なのかを見分けるために、さまざまな診断基準や指標が設けられている。とはいえ、その現れ方は人によって違っており、単独の障害として現れる場合もあれば、彼のように複数の障害を併存している場合もあるのだ。
ADHDは、「不注意」「衝動性」「多動性」などの特性があり、「落ち着きがない」「よく考えずに行動する」「物をよくなくす」「忘れ物が多い」など、行動面に特徴がある。ASDの主な特性としては、「コミュニケーションの障害」「社会的なやり取りの障害」「こだわり行動」の3つがある。具体的には「社会的な人間関係を築くのが難しい」「他人とのコミュニケーションがとりにくい」「活動や興味の範囲が狭くこだわりが強い」などが挙げられる。
結局、彼は大学中退後、障害者の支援施設を経て、いくつかの会社での実習を経験して「まいばすけっと」へ入社することができた。これらの特性を併せ持っていた場合、雇用を続けるのは非常に難しいという判断を下す企業もある中、彼はどのようなモチベーションで仕事をしているのだろうか。
「最初に実習に行ったある会社で、最後の日に教育の担当者から『あなたにはお金なんか払いたくない』って言われたんです。他の人にも結構厳しいことを言う人だったんですけども、すごくショックだったですね。これまで生きてきたことはいったい何だったんだろうと考えました。その後も他の企業の実習も回ったんですが、自分はこれから本当にきちっと働いていけるのかと考えました。そこで僕は相手から来てくれてよかったと思ってくれる人になりたいと。そういう意識が大きくなったんです」
厳しい言葉に負けず、逆に糧にした大谷さん
障害者雇用の場合、支援制度・助成措置として「職場実習」がある。彼の場合、最初の職場実習で厳しいことを言われ、また、言われたことを必要以上に強く受け取りやすいという特性もあるため、かなり深くヘこんでしまったという。しかし、その経験が糧となり、働く意欲が膨らんでいったようだ。
「最初の頃は厳しいことも言われたため、きちっとしようと思って、自分の中ではだいぶ無理していたところもありました。その後、『まいばすけっと』の実習に行ったときに、まるで天国のように感じて、息をするのも楽だと感じましたね。働くことがうれしくて仕方ないっていう感じでした」
周囲と協調しながら社会に貢献しているという実感が、何より自信になったという。今では家にいるよりも仕事をしていた方が楽に感じるという。働き始めたときは、週5日で1日6時間労働だったのが、今では週5日で8時間労働に増えている。
しかし、発達障害ならではの苦悩も見え隠れする。仕事中に他の障害の同僚にイライラするときも多かったという。
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