サッポロの4位転落で激化する高級ビール戦争
高級ビールのパイオニアである「エビス」が、苦戦を強いられている。2008年度の販売数量が前期比1割減に落ち込む一方、サントリーの「プレミアムモルツ」が同21%増と大躍進。長年、独壇場だった高級ビールの首位の座をサントリーに奪われてしまった。サッポロビールにとってエビスは収益柱であり、「日本文化を代表するビール」(サッポロの寺坂史明専務)という自負がある。サントリー逆転で、かつてないほど危機感を強めている。
「プレミアムモルツとエビスはウサギとカメみたいなもの。われわれはカメでいいと思っている」。サッポロの寺坂専務はあくまでもマイペースを強調するが、09年度のブランド戦略には焦りがにじみ出る。「エビスへの史上最大の集中化戦略」と銘打って、テレビCMを中心に広告費を大幅に増やす。3月に期間限定で「シルクエビス」を投入するなど拡大に必死だ。
サントリーは黒字化
サッポロ苦戦の背景には、サントリーの価格戦略も影響している。原材料高を理由にキリンビール、アサヒビール、サッポロは昨春までに値上げしたが、サントリーだけは昨年8月末まで家庭用の缶製品の価格を据え置いた。この“後出しじゃんけん”が奏功し、サントリーのビール類シェアは12・4%(前期11・0%)と過去最高を記録。サッポロは11・8%(同12・5%)と、4位に転落してしまった。
敗因はエビスだけではない。第3のビール市場が同14%増に膨らむ中、サッポロだけが同9%減に後退。発泡酒も市場が同7%減に対し、サッポロは26%減だった。
一方で、サントリーは勢いづく。「08年度は販促費を削減しても数量が増えた。採算の高い第3のビール比率も高まった」(サントリーの相場康則常務)ことで、赤字続きだったビール事業が、参入46年目にして悲願の黒字化を達成。ただし09年度は価格据え置き特需が消えてしまうため、3位の地位を盤石にできるか正念場だ。広告費と販促費を積み増し、ビール類を同5%伸ばす拡大戦略を描く。
引き続きプレミアムモルツも同15%増の1320万箱計画と、攻めの姿勢を崩さない。対するエビスは同11%増の1200万箱と計画では後塵を拝すが、遅れて実施したサントリーの値上げが、どう影響するかは未知数だ。
加熱する両社を横目に、キリンの三宅占二社長は冷静だ。「こういう時代でプラスは難しい」とビール4社の中で唯一、マイナス計画を発表。成長が続いた高級ビール市場も08年度は微減に転じており、09年度に拡大を見込むのは非現実的。それでも両社のプライドを懸けた高級ビール戦争は激化する一方だ。
(佐藤未来 撮影:代 友尋 =週刊東洋経済)
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