輸送危機で形ばかりとなる「雑誌発売日」の意味 地方書店から驚きと戸惑い、仕方なしの声も

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今から見ると、発売日をめぐるドラマさながらのやりとりも、今は昔の感を禁じえない。ここまで雑誌の売れ行きが落ちると、発売日に競い合って買われた光景が懐かしい。むしろ今は、発売日に合わせて雑誌を届けること自体が難しくなっているのだ。トラックに積む荷物(雑誌)が少なくなったことで、ドライバーの人件費や燃料費などのコストを賄えなくなりつつある。

今回、雑誌の発売が1日遅れとなる地域の書店からは、驚きや戸惑いの声も上がっているようだが、事情が事情だけに、致し方がないという空気が支配的なようだ。

取次関係者からささやかれる発売日自体をなくす案

そんな状況で、輸送を担当する取次関係者からささやかれ始めているのは、発売日自体をなくしてしまうことだ。一度に発送して、届いたところから発売していけば、発売日に合わせるための制限がなくなり、作業効率はよくなる。

もともと書籍は、ベストセラー作家村上春樹氏の新刊のような特別なケースを除き、発売日は設定されていない。出版社が取次会社に納品した日を起点にして、届いた地区から発売していくという「搬入発売」が一般的だ。通常は取次に搬入すると中1日で配本され、2日後には首都圏をはじめとした主要都市の書店に並ぶため、「搬入発売」から2営業日後を対外的な発売日にしている出版社が多い。

少しでも新鮮なネタを載せようと競合誌としのぎを削ったり、同じ発売日に合わせて後れをとらないようにしてきた雑誌を発行する出版社や、雑誌の編集者からすると、発売日があいまいになったり、なくなることへの抵抗感は強い。週刊誌などでは紙版の雑誌発売に先駆けてネットで紙版の記事の抄録を配信し、紙雑誌購入の導線をつくる試みも出てきているなか、紙版雑誌の制作スケジュールを根底から見直すところもでてくるだろう。

しかし、ことここに至った以上、雑誌発売日の考え方を根本的に見直さざるをえなくなる日もそう遠くないだろう。ほぼ毎日、書店に出版物が届くという世界に冠たる日本の出版流通が、いよいよ変わるときが迫っている。

星野 渉 文化通信社専務取締役

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ほしの わたる / Wataru Hoshino

1964年東京都生まれ。國學院大學文学部卒。1989年、文化通信社に入社。主に出版業界を取材。NPO法人本の学校理事長、日本出版学会副会長、東洋大学(「雑誌出版論」2008年~)と早稲田大学(「書店文化論」2017年~)で非常勤講師。著書に『出版産業の変貌を追う』(青弓社)、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)など。

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