「PDCA・コスパ・KPI」が第4次産業革命を潰す理由

数学が国富の源泉になる「数理資本主義」時代

その答えは、文部科学省と経済産業省の研究会が発表した報告書(以下「報告書」)の中にある(なお、本報告書の作成には筆者も関与しているが、本稿は筆者個人の見解である)。

タイトルは、『数理資本主義の時代:数学パワーが世界を変える』だ。

その冒頭に、こうある。

「この第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先へと進むために、どうしても欠かすことのできない科学が、三つある。
それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」

なぜ、そこまでして「数学(数学的な表現を必要とする理論物理学なども含む)」の重要性を強調しているのだろうか。

その理由は、それほど難しくない。

第4次産業革命とは、革新的なデジタル技術が経済社会のあらゆる方面に浸透していく過程と言うことができるが、そのデジタル技術を根本で支えているのは、数学だからである。

例えば、「第3次AIブーム」の火付け役となり、第4次産業革命を加速化させたのは、深層学習(ディープラーニング)の登場である。この深層学習という新たな機械学習のアルゴリズムの根幹にあるのは、言うまでもなく数学だ。

ちなみに、1980~1990年代までのいわゆる「第2次AIブーム」では、高校から大学2年までに学ぶ程度の数学の知識があればよいとされていた。それが、現下の「第3次AIブーム」になると、大学3~4年で学ぶ数学の知識まで必要とされているという。AIの進歩とともに、要求される数学の水準が高まってきているのだ。

ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長は「ディープラーニング系の機械学習は、まさに数学の戦いだ」と言っている。まさに、その通りである。

数学者や物理学者の獲得競争

そもそも、現代のコンピュータの基礎を作り上げてきたのは、ジョン・フォン・ノイマンやアラン・チューリングをはじめとした天才的な数学者たちであったことは、よく知られている。

それ以前に、デジタル回路の設計において必須となるブール代数は、19世紀の数学者ジョージ・ブールが提唱したものだ。

いや、もっと時代をさかのぼるべきであろう。

現代の暗号セキュリティの中で最も一般的なのは、RSA(Rivest・Shamir・Adleman)公開鍵暗号である。この暗号は、素数が無限にあることとあらゆる整数が一意に素因数分解できるということに基づいているのだが、これを発見・証明したのは、2500年前のピタゴラスなのだ。

このように、歴史的に見ても、デジタル技術の進歩・革新を支えてきたのは、数学にほかならない。「第4次産業革命に必要不可欠な学問は、数学である」と言ったところで、何も驚くことはない。フィールズ賞受賞者の森重文・京都大学高等研究院院長も指摘するように、「昨今、世の中のものはほとんど背後では数学を使って動いている」のである。

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