「PDCA・コスパ・KPI」が第4次産業革命を潰す理由 数学が国富の源泉になる「数理資本主義」時代

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世界の名だたるIT企業やシリコンバレーのハイテク・スタートアップ企業が、優れた数学者や物理学者の獲得競争を展開しているのも、そのためだ。

恐るべきことに、グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトといった巨大IT企業における理論研究の水準は、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学といった超一流大学の水準をも凌駕しつつあるという。

このことが意味するのは、数学の理論研究がイノベーションに直結するようになっているということだ。「純粋数学は役に立たない」などという認識は、第4次産業革命以前のものである。純粋数学と応用数学の区分がなくなりつつあるのだ。

「数理資本主義」の時代がやってくる

このような問題意識の下、イギリスやフランスなどでは、数学が雇用の10%程度を生み出しているというレポートが出されている。歴史的にも数学に強いイギリスやフランスは、「第4次産業革命」を好機と捉えているのだ。

「報告書」は、数学が国富の源泉となる「数理資本主義」の時代が到来しつつあるとうたっているが、それは決して誇張ではないのである。

あの加賀市が、なぜ新しい「数学」教育に挑戦しようとしているのかも、これで明らかになったであろう。「数理資本主義」の出現を察知したからだ。

とくに、数学の知識や能力を習得するためには、初等中等教育の段階から、数学に関する興味を高めたり、数学に関する苦手意識を払拭したりすることが有効だといわれている。その意味で、数学者が子供たちに数学の面白さを伝える「数理女子ワークショップ」を企画しているのは、慧眼といえるであろう。

問題は、この来るべき「数理資本主義」の時代において、わが国は勝ち残ることができるのかどうかである。

これに関して、「報告書」は、わが国のポテンシャルは高いとしている。

例えば、フィールズ賞の受賞者数は世界第5位(3人)であるなど、日本の数学研究は世界の中で一定の存在感を示している。

また、義務教育終了段階(15歳児)の生徒の学力調査(PISA)によると、わが国の科学的リテラシーや数学的リテラシーは、国際的に見ても上位にある。

さらに、高校生らが参加する「国際数学オリンピック」や「国際情報オリンピック」では、例年メダリストを輩出している。

また、NPO法人「数理の翼」は、高い数学の能力を持つ中高生を育成しているが、近年では、若者同士がSNSを通じて数学の知識を入手し、切磋琢磨しており、高度な数学の能力を持つ「スーパー中高生」の層が厚くなっているという。

次ページその若い数学の才能を活かしきれているのか?
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