「よい現場」が成長戦略のカギを握る ものづくり論の大家・藤本隆宏氏の提言(上)

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アベノミクスの成長戦略には、なぜ「現場」の視点が欠けているのか。現場の「伸び代」はまだ十分に残っているという、その理由とは――。ものづくり論の大家が、安倍政権がもつべき視座と日本の強みを経済成長につなげる秘策を伝授する。

規制改革についての議論は盛んだが……

日本経済は再び安定成長の軌道に乗れるのか。2013年は、このことが大いに論じられた。積極的な金融・財政政策を特徴とするアベノミクスの成果を評するのは、まだ不安定要素も多く時期尚早だが、少なくとも円高是正、景況感の改善など直近の好材料は増えている。

しかし本記事の目的は、こうした日本経済の短期の動向を論じることではない。もっと長期の経済成長を考えるうえで、いまの多くの議論に欠落している「現場」という視点について考えることである。日本の産業現場はいま、世界経済的に見ても転換点に来ており、「よい現場」が国内に残れるチャンスは高まっている。国はそうした状況認識を政策に反映すべきだと筆者は考える。

ここで「現場」とは、付加価値が生まれ流れる場所のことを指し、工場、職場、開発拠点、店舗、サービス拠点、病棟、農場などが含まれる。ちなみに筆者は、実証社会科学者として国内外の現場を頻繁に歩き回り調査する者である。

この現場視点を念頭に置きつつ、アベノミクスの「第三の矢」とされる成長戦略、たとえば13年6月の「日本再興戦略」を見ると、メッセージは概略以下のように読める。

――「日本の企業経営者と国民(消費者)は『失われた20年』で自信を失い、政府の諸規制にも嫌気がさし、投資・消費マインドが冷えていた。ゆえに積極的な金融・財政政策(第一・第二の矢)でデフレを脱却し、民間(経営者・国民)の自信と期待を高める。これで経営者が積極的な投資に転じ、事業転換やイノベーションを行なって産業の新陳代謝を進めれば、労働生産性は伸び、日本経済は再び成長軌道に乗る。政府は特区を含む規制改革と投資減税(法人税減税も?)を行なうが、成長戦略の主役は民間(経営者・国民)の活力だ。経営者は内部留保をため込む後ろ向きの発想を転換すべきである」

要するに、デフレ、規制、税負担で萎縮した企業経営者のマインドを変えるために、積極的金融・財政政策でデフレを脱却し、成長戦略では主に規制改革と投資減税をする、というわけだ。

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