「夫の虐待」に強烈な嫌悪感を覚えた彼女の告白 子への行き過ぎた体罰と暴言が離婚の引き金に

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その頃から、急激に豊さんへの思いが冷めていった。夫との夜の生活を拒むようになっていく。ただでさえ、4人の子たちの家事に追われ、仕事もしていて忙しいのは確かだ。しかし、それだけではない。豊さんの子どもたちへの態度が、恵子さんの心を急激に冷え切らせていった。

拒否したら「病気だ」と言われて

しかし、1回拒否すると、豊さんは、「そんなのは病気だから精神科に行って来い」と言い放った。そして、何度も「今日は、病院に行ったか?」と恵子さんに詰め寄った。「病気」という言葉が、頭の中でグルグルと回った。その言葉を言われてから、恵子さんはご飯が食べられなくなり、体重が16キロも減ってしまった。

「あれだけごはんを食べるのが好きだったのに、喉を通らなくなった。食べても、吐いてしまうんです。毎日、夜になるのが恐怖でした。こっちは心が離れているのに、向こうは勝手にライオンみたいに、寝ていても平気で襲ってくる。それまでは普通にあったんです。

でも下の娘を産んで、さらに夫の子どもたちに対する暴言がひどくなって、急激に冷めていきました。同じ空気を吸うことすらつらくて、どうしても夫が気持ち悪くて仕方ないんです」

一度、拒否するようになってから、豊さんは疑心暗鬼になり始めた。恵子さんが浮気しているというのだ。

「『お前は浮気してる。誰か男がいるんだろ』と絡んでくるんです。夫は前の奥さんに、男を作って逃げられた過去があるんです。私にも同じように、男と一緒に逃げられるという恐怖があったんだと思います。そんなこともあって、私の浮気を異様に疑うようになりました。

もちろん、浮気なんてまったく心当たりないんですよ。その頃から携帯も盗み見されるようになりましたね。私が、お風呂に入ってるときに見てるんですよ。いつも携帯の位置が微妙に動いていて、あぁ、見てたんだなと思いました」

夫への嫌悪感は日に日に増すようになり、食事が喉を通らなくなり、離婚が頭をよぎるようになる。離婚したいと切り出すと、豊さんは「男ができたんだな」と決めつけてきた。話し合いの最中に「本当は、男がいるんだろ?」と激高し、腕をギリギリとつかまれ、締め上げられた。腕がちぎれるかと思った。

「男なんていないし。ただ単に別れたいからだから!」

そう言ったが、聞く耳を持ってはくれない。思わず、「助けて!」と大声を上げた。

その1件があって以降、恵子さんは、子どもを連れて家を出ることを決意。夫の連れ子たちも引き取れないかと役所に相談したが、無理だと言われた。そのため、やむなく自分の産んだ子どもたちを連れて家を出ることにした。半年後に離婚が成立した。

恵子さんは、夫との縁を切りたくて、子どもたちの養育費を夫に請求することもなかった。そして、シングルマザーとして、1人で子どもたちを育て上げた。

夫との縁は切れたものの、成人した夫の連れ子とは、いまだに家族同然の関係が続いていて、定期的に連絡を取っているのだという。

「上の子が、『かあちゃんが出ていった後、超やばかったよ』って言うんです。『だって、玄関に女の人の下着が落ちてるんだよ』と教えてくれました。夫は風俗の女の人を連れ込んでいたみたいです。本当に、どうしようもない人でした」

たまに、仲のいい老夫婦を街で見かけたりするとうらやましいと感じることはある。それでも恵子さんは、もう二度と結婚はしたくないと思っているという。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

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