千葉で「野生イノシシ激増」の現場に見えた難題 館山では人の生活圏に動物が入ってきている

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沖さんは「自分で獲物を取って食べることに惹かれる人が増えている。農家には、こだわりを持って作業できる人が多いので、イノシシ解体技術の向上も期待できる」と思う。加藤さん、石井さん、八木さん、鈴木市議らとともに、額を突き合わせては、イノシシの肉を売る事業化への道を探っている。

政府もジビエ奨励、背景には頭数抑制という課題

2016年11月には議員立法により鳥獣被害防止措置法が改正され、「捕獲した鳥獣の食品(ジビエ)としての利用の推進」が盛り込まれた。2018年度中に全国17のモデル地区が整備され、今後、捕獲から搬送、処理加工をスムーズに行うスキルアップが図られる。

解体技術の問題のほかにも、野生イノシシは時期や固体によって味のばらつきがあり、安定供給が難しいことなどが課題だ、と館山の人々は頭を抱えていた。ジビエの事業化を目指す全国各地で、さまざまな課題への取り組みが始まっている。

環境省が2018年10月に発表したイノシシの個体数推定結果によると、2016年時点が89万頭で、2010年以降は減少傾向にある。同省の堀上勝・野生生物課長は、「急増が止まっているので、捕獲圧をかけてきたことの効果があったのだと思う」としながら、「現状を維持し、さらにやっていかねばならない。分布が広がっているところを抑えないと。被害が多いところだけ捕獲するのでは不十分」と表情を引き締める。

環境省は、農業や林業への被害のあるなしにかかわらず、各県が個体数を調整していく「指定管理鳥獣捕獲等事業」を進めている。しかし、館山市はその対象にはなっていない。

実は、千葉県館山市で最近になってイノシシやサルの生息数が増えた背景には、ハンティングのためにイノブタを故意に放した、もしくは、廃園になった動物園からアカゲザルが逃げ出した、など人間側の不適切な行動があったとも指摘されている。

野生動物の生息数を適正に保つというのは、言うに易く、行うに難しい。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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