千葉で「野生イノシシ激増」の現場に見えた難題

館山では人の生活圏に動物が入ってきている

田畑や住宅地はもちろん、道路上にもイノシシ被害が及んでいた。イノシシは道路脇の斜面や草地を掘り返す。ミミズを探して食べるためだが、植わっている木が倒れるほど深く激しく掘り返すので、地元では雪をかき分けて進むラッセル車にたとえて、“ラッセル掘り”とも呼んでいる。道路脇の草地からは、絶えず大きな石がごろごろ転がり出て、運転する側にとっては危険極まりない。

イノシシが道路脇の斜面や共有地を“ラッセル”掘り、石が絶えず県道に転がり出す(撮影:河野 博子)

イノシシが道路上に飛び出し、バイクや車にぶつかる交通事故も珍しくない。昨年6月には、新聞配達のバイクにイノシシが体当たりし、バイクに乗っていた人が川底に落ちて数週間のケガを負った。今年1月には、農家の人の車と飛び出してきたイノシシが衝突し、車が大破する事故があったという。

道路上への飛び出し注意の看板(撮影:河野 博子)

野生のイノシシの生息域は拡大している。緑の国勢調査として知られる環境省の「自然環境保全基礎調査」による直近のデータは、2004年に実施された哺乳類分布調査によるものだ。今から15年前の調査になるが、この時点で、千葉県は「それ以前には生息が確認されておらず、新たにイノシシが見つかった場所」だった。

環境省の堀上勝(まさる)・野生生物課長は「全国各地で耕作放棄地が広がり、里に人が少なくなってきたことが大きな要因となり、生息域が急拡大している。人が生活するところにイノシシの生息域が近づいてきているので、被害が増えている」と話す。

昨年は、イノシシによる「人身被害」も目立った。読売新聞によると、2月24日には茨城県常陸太田市の山林で、伐採作業中の37歳の男性が尻や腕をかまれてケガをし、2月26日には山梨県市川三郷町で農作業中の60代男性が左手をかまれ、全治1カ月のケガを負った。

死亡事故も起きた。9月23日に静岡県南伊豆町の国道で、友人とバイクのツーリング中だった51歳の会社員が、右から飛び出して来たイノシシと衝突し、胸などを強く打って搬送先の病院で死亡した。

イノシシをテーマに据えた野外体験キャンプ

福島県で子どもの自然体験キャンプ事業を続けている「野外計画」は、館山市の牧場跡に宿泊施設「シーマたてやま体験センター」を開いた。今年は本格稼働3年目。近隣の農家とタイアップしての農業体験プログラムなどを行ってきたが、今年1月、初めてイノシシをテーマに据えた野外体験キャンプを実施した。

「東紅苑」の住人でイノシシの有害駆除を行う加藤茂さんは、講師の1人。銃を持ち、猟犬とともに、参加者を引率して入り、イノシシの生態や暮らしぶりについて説明した。途中、4回にわたって、イノシシと遭遇。その都度、緊迫したが捕獲には至らなかった。

東京から来た人が主だった参加者の中に、シーマたてやま体験センター隣の畑集落の石井唯行さん(41歳)がいた。石井さんは31歳のとき、東京でケーブルテレビ会社の営業や工事を請け負う「ワンズディー」を設立し、館山に戻るつもりはなかったという。ところが2年前に、1000年以上の歴史を持つ畑集落の歴史を知り、館山支店を開いて館山に人と仕事を呼ぶ事業に乗り出した。

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