日本人は「人口減」で起こる危機を甘く見ている 最低賃金を上げ、自ら変わらねばならない

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いま求められているのは、これまでの常識から距離を取り、前提条件にとらわれずに解決策を見いだす思考だとアトキンソン氏は言う。そこで本書においてもさまざまな角度からこの問題に斬り込んでいるのだが、特に興味深いのは第5章「最低賃金を引き上げよ」から第6章「生産性を高めよ」につながる流れだ。

第5章で「世界経済の成長が『生産性向上』に依存するようになりつつあるからこそ、最低賃金を引き上げれば生産性をつり上げることができる」ことを示したのち、第6章では、日本における「賃上げ」の重要性を説いているのだ。

根底にあるのは、人口減少・高齢化に対応するためには、全企業が賃上げに向かうことが不可欠だという考え方である。

問題は、経営者をどう動かすか

これからは高齢化によって、無職の人が激増することになる。つまり、彼らの年金を払う予算が必要になってくるわけだ。それだけではない。高齢者だからこそ医療負担も大きいため、その財源も必要なのである。

しかしその一方、給料をもらっている世代は激減する。だとすれば、その税負担のために生産年齢人口の給料を増やすことが必須となる。所得増加を実現するには生産性向上が必要条件であり、これが大きな政策転換になるということである。

具体的に計算してみましょう。社会保障に費やしているコストを生産年齢人口で割り、さらに年間平均労働時間(ここでは2000時間とします)で割ると、「1人・1時間当たりの社会保障費負担額」を計算できます。これは2018年には約817円でしたが、2040年には1642円となり、2060年には2150円にまで膨らみます(ここでは、2040年までに社会保障コストが190兆円まで膨らみ、その後横ばいとなると仮定しています)。今の最低賃金では、とても対応できません。(213ページより)

だが、悲観する必要はないとアトキンソン氏は言う。なぜなら、日本の人材評価は世界第4位と非常に高いのに、現在の生産性は著しく低いから。日本では、人材の潜在能力がまったく発揮されていないということだ。

日本の生産性はあまりにも低迷している期間が長く、他の先進国とのギャップが開きすぎている。よって、日本的経営や日本型資本主義、あるいは文化の違いを理由として正当化したり、ごまかしたりすることは不可能。これを解決することは日本にとって喫緊の課題だが、そこでの唯一の問題は、経営者をどう動かすかにあるというのである。

次ページ人材評価が高いのに、最低賃金も生産性も低い日本
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