日本人は「人口減」で起こる危機を甘く見ている

最低賃金を上げ、自ら変わらねばならない

本来であれば、ここまで人材の評価の高い国であるならば、人材を上手に活かしさえすれば、大手先進国で最高水準の生産性と所得水準を実現するのも可能なはずです。にもかかわらず、現在の体たらくに、長年の人口増加が生み出した日本の経営者の無能さや国民の甘えが如実に表れています。
日本以外の国では、生産性と人材評価の間に強い相関関係があります。また、人材評価と最低賃金にも深い関係があります。しかしながら、日本だけは人材評価が高いのに、最低賃金が低く、生産性も低いのです。異常だと言わざるをえません。(225〜226ページより)

しかしアトキンソン氏は、この現実を別の角度から捉えると、そこに希望が見えてくるとも記している。生産性を向上させるため、最低賃金を引き上げる政策を実施すれば、それに十分耐えられる人材はすでに存在するというのがその理由だ。

言い換えれば、最低賃金を引き上げたとしても、日本人の実力をもってすればなんの問題も生じないという考え方である。

最低賃金を引き上げることの6つのメリット

そのように主張するアトキンソン氏が最低賃金の引き上げに期待することは、「強制力」だという。全企業に対して直接的・間接的に影響を与えることができるため、企業部門を動かす効果が期待できるということだ。そして、そのメリットとして次の6つを挙げている。

① 最低賃金と企業規模拡大

優秀な労働者を豊富にかつ安く調達し、使うことができれば、技術開発への投資意欲が減退し、人間の力に依存した経営になる。スキルが高く、本来高い給料を払わなければ雇えない人材を安く雇えるのなら、給料の支払い能力が低くても会社をつくることが可能。その結果、企業の数は増え、小規模化するということだ。

人のコストが高くなると、企業規模が小さく支払い能力の乏しい企業では払えなくなる。そこで規模の経済を利かせるために他社と統合し、規模を大きくする動機が生まれる。その生産性向上効果は絶大だというのだ。

② デフレと最低賃金

人口が減って需要者が減少すると、その悪影響を受ける企業では、需給のバランスが崩れて価格競争が始まる。すると経営者は、社員の給料に手を出すようになる。生き残るための価格競争の源泉が、労働者の給与になるということ。

しかし、社員の給料に手をつけたとしても限界がある。その制限こそ、最低賃金。最低賃金を引き上げることによって、それ以上は価格競争ができないようにすることが可能になる。企業は利益と価格と給料しかコントロールできないからだ。価格を下げても給料を上げられなければ、経済が成長しない以上、その企業は規模を縮小するか破綻するしかなくなる。

よって国が最低賃金を引き上げれば、需要者の減少によって企業部門が引き起こすデフレ圧力を緩和できる可能性が高いという考え方である。

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