世界的な不動産バブルの崩壊はいつ来るのか 暗躍してきた中国マネーの動向がカギを握る

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とはいえ、中国国内の不動産市場は、まだ下落トレンド入りしたとは言えない。現在は一部の都市で住宅価格を抑えるよう上昇率に上限を設けたりしているが、これらを緩和すれば、取り引きが活発化するとみられている。

しかし、こうした需要を支えているのは、やはり将来の値上がり期待だ。もし、値上がり期待が消滅したら、空き家がすべて売りに出されるだけでも市場は大きく緩んでしまう。不動産は値上がりが基本と考えている国民への心理的なマイナスも大きそうだ。すでに、昨年暮れ頃には、上海やアモイなどの都市で、新築マンションの売れ残り住戸の値引き販売に抗議するデモが勃発したと報じられた。

中国の不動産投資パワーの源泉は個人の直接買いだ。バブル期に投資で儲けたあぶく銭で日本企業が米国を買いあさった時よりも裾野が広い。そうした個人マネーの原資は、彼らが中国国内に複数所有するマンションの売却益である。日本のバブル崩壊はほぼ国内の問題で収まったが、中国の住宅価格は、海外市場に大きな影響を与える可能性がある。

「Rashomon」の実態を占う試金石

日本はどうか。日本でも、昨年、不動産のインバウンド投資額は大きく減少した。それでも日本の場合、銀行の融資条件が他国より緩く、低利ローンを背景に実需の買いが強い。今年に入り、地方の主要都市でも、これまでに見られなかったような億ションに複数の申し込みが入り抽選になっている。住宅価格の暴落リスクはまだ低いと思われる。先日発表された公示地価でも、4年連続の値上がりと堅調さが示された。その一方で、世界の不動産市場は、昨年半ばまでの強気一辺倒から風向きが変わってきた。

見方によって予想するシナリオが大きく分かれる状況を、芥川龍之介の名作にちなんで“Rashomon 羅生門(効果)”と表現することがある。米国や中国でもこの表現は使われている。ニューヨークのハドソンヤードも、ニューヨークの新名所となるのか、あるいは不調に終わりバブルの塔と揶揄されるのか、現在、見解は大きく分かれている。景気後退がささやかれる中での大プロジェクトの竣工は、世界の不動産市場を占う上で大きな試金石になるかもしれない。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー

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おおつき なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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