混乱を極めるベネズエラと2人の大統領の行方 これまでの経緯と予想されるシナリオを解説

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マドゥロ政権の延命を手助けしてきたロシア、中国、キューバなどの動向も多少なりとも影響するであろうが、マドゥロ大統領退陣は時間の問題とみられる。

ベネズエラの今後は、さまざまなシナリオが想定される。最も平和的な解決策はマドゥロ大統領がロシアやキューバなどに亡命し、政権交代が平和的に行われることだ。そのほかには、ベネズエラの社会不安が悪化し、国内の混乱を受けてマドゥロ大統領の命綱となっている軍幹部がマドゥロ大統領を退陣に追いやるといったクーデターのシナリオが考えられる。

ただし、軍幹部は次期政権を信用していないことからも、腰が重い。グアイド暫定大統領は恩赦を与えることを語っているが、同氏出身の大衆意思党(VP)はマドゥロ大統領に対し強硬姿勢を示してきた政党だ。マドゥロ政権下、ベネズエラ軍には将軍が約2000人もいるという。これはアメリカの将軍の約800人を上回る。ベネズエラ軍幹部の多くが犯罪に関与してきたといわれているが、ベネズエラ人弁護士によるとベネズエラの恩赦を与える法律では、どのような犯罪に恩赦を与えるかの明確な定義がないという。

また、軍幹部が恩赦のために自らの罪を自白した後、現在は野党主導である議会が恩赦を承認する必要がある。さらにはアメリカや国際刑事裁判所(ICC)はベネズエラの恩赦法を、定義が広範囲にわたるため、支持していないことも軍幹部の懸念材料だ。これら懸念が、軍幹部がマドゥロ政権を容易に見限ることができない背景にあり、国が人道危機や経済危機に直面していても政権崩壊がなかなか起きない理由だ。

なお、米軍などによる軍事介入の可能性は現時点では低い。ベネズエラの民主化を主張する米州諸国の集まり「リマ・グループ」は、軍事介入によってベネズエラ危機を打開することに反発している。アメリカがモンロー主義(南北アメリカへの欧州の干渉を排除する)を主張し、中南米情勢に内政干渉した過去の経験を想起させるため、中南米各国は軍事介入に対して懸念を持っている。

だが、憲法第187条に基づき、ベネズエラ議会は国際社会に対しベネズエラに軍派遣を要請する権限を保持しているとの解釈もある。現在、ベネズエラ議会ではその手法を検討中ともいわれており、マドゥロ政権が長期化すれば、同議会の要請を受け、アメリカなどが軍事介入するといった可能性は残されているようだ。

ハウスマン元計画相の「二日酔い復興計画」

「マドゥロ大統領を退陣に追いやるのは簡単なパート」。ホセ・カルデナス元米国際開発庁(USAID)長官補代行は、2019年3月、ベネズエラ再建について真の困難に直面するのは政権交代後であることをワシントン市内の会合で語った。

ベネズエラの経済復興で中心的役割を担うことになる可能性が高まっているのは、ハーバード大学で経済開発学の教鞭をとり、2019年3月、米州開発銀行(IDB)のベネズエラ代表に就任が確定したリカルド・ハウスマン元ベネズエラ計画相だ。

ハウスマン氏は2014年に、国民が必需品も得られる保障がない中、ベネズエラはデフォルトすべきと寄稿したことから、マドゥロ大統領が「Sicario financiero(金融の殺し屋)」と称し、米州では一躍有名となった人物だ。ハウスマン氏は途上国が経済成長することを阻んでいる主因は何であるかを分析し、各国政府に対処法を提示することに経験豊富だ。同氏は政権交代後、グアイド政権で財務相就任が有力視されているとも言われている。いずれにしても、今後、ハウスマン氏がベネズエラの再建に中心的役割を担うことは間違いない。

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