混乱を極めるベネズエラと2人の大統領の行方 これまでの経緯と予想されるシナリオを解説

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VP党出身のグアイド暫定大統領の背後には自宅に軟禁されている同氏の師匠レオポルド・ロペスVP党首がいて、いまだに大きな動きについては指示を出しているという。さらにはロペス党首に助言しているのがロペス党首の母校ハーバード大学教授のハウスマン氏だ。ハウスマン元大臣は600億ドル相当のIMF緊急融資など国際社会からの支援に加え、市場メカニズムに基づきベネズエラ社会で経済的権利を復活させることなどを含む「Plan para la mañana siguiente(二日酔い復興計画)」といった新政権の経済復興案を検討している。

政権交代後、ベネズエラ経済の復興を担うのは、引き続き同国の主産業である原油業界のほかにはない。だが、長年の投資不足により老朽化した施設、世界各国に流出した技術者、設備輸入のための外貨不足、アメリカの制裁など再建の課題は山積みだ。そのため、まずは緊急融資が不可欠となる。したがって、政権交代後2~3年程度で石油産業がチャベス政権下のレベルまで回復するとは誰も想定していない。このほか、ベネズエラの石油産業の復活には、石油価格低下や再生可能エネルギーへの需要シフトなど外部要因が足を引っ張る可能性もある。

ベネズエラは麻薬取引のハブ

経済面を中心としている「二日酔い復興計画」には含まれていないが、ベネズエラ再建で考慮せねばならないのが、治安回復や法治国家の確立だ。

隣国コロンビアでは経済復興のためには、まずは麻薬戦争終結による治安回復を最優先した。アルバロ・ウリベ政権時代、米国の支援「コロンビア計画」により、ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)を撲滅する強硬策が取られた。ベネズエラでも、連邦政府主導で治安回復を最優先しなければ、投資は戻らない。

マドゥロ政権下のベネズエラは、今や世界の麻薬取引のハブになっているとジョン・ポルガ・へシモビッチ米海軍士官学校准教授は指摘している。政権交代後、政府系武装集団(コレクティーボ)をどのように扱うかが懸案だ。そしてコロンビアのゲリラ組織の民族解放軍(ELN)やFARCはベネズエラ国内の無法地帯で資金洗浄、麻薬取引、違法採掘などで資金を稼いでおり、現政府に対し不満はない。だが、政権交代となれば、既得権益を奪われることとなり、反発が予想される。新政権下、国内の対立が鮮明化し、第2のリビアとなりかねない。

ベネズエラに再び投資を呼び戻すには、「二日酔い復興計画」で指摘しているように経済成長を阻んでいる政府による価格統制、接収の脅威、ドル不足などを解決するほか、法治国家の確立も重要だ。チャベス政権時代の2010年代初頭、ベネズエラを筆者が訪問した際にも現地に進出していた日本企業は脆弱なインフラ問題に直面し、すでに停電によって製造機械の故障が生じるなど同国で製造業を継続することは難しい状況にあった。ベネズエラのインフラ投資が汚職に流れ、投資不足の電力インフラが脆弱であったことなどが、3月上旬に起きた大規模停電の背景にあると専門家は指摘する。

ベネズエラには上記の通り、治安、資金調達、法の支配、流出した人材を回復、確保することに時間がかかることから、早期に再参入することにアメリカの産業界でも抵抗がある。だが、ベネズエラに眠る豊富な資源、そして同国での長いビジネス経験からも、ベネズエラの再建に高い関心を抱いている。たとえば、欧米メジャーはベネズエラでの長年の経験があり、同国の石油を熟知しており、同国市場への再参入を狙っている。

すでにホワイトハウスそしてアメリカ政府の各機関は米産業界と、マドゥロ政権崩壊後の計画について意見交換を始め、グアイド暫定政権とも会話を始めている。2003年のサダム・フセイン政権崩壊後のイラク再建には失敗し、その原因として治安回復が重点的に行われなかったことが指摘されている。

マドゥロ政権崩壊後は、チャビスタの穏健派も含む幅広い国民に恩恵をもたらし、国を統一する政策を指導者は推進することが不可欠だ。いくら豊富な資源で地質リスクが低くても、治安リスクそして政治リスク、商業リスクが高い限り、企業はベネズエラに投資できない。マドゥロ退陣後も、ベネズエラはしばらくは、復興に時間を要する見通しだ。

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