混乱を極めるベネズエラと2人の大統領の行方 これまでの経緯と予想されるシナリオを解説

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国際的な非難を浴びるマドゥロ氏だが、まだ軍が従っている(写真:REUTERS/Manaure Quintero)

今日の問題の根源にはチャベス大統領が推し進めた「21世紀の社会主義」がある。

中南米が「失われた10年」と呼ばれる1980年代の債務危機を経た後、90年代はアメリカの知識人や政治家そして国際機関の共通認識であった「ワシントンコンセンサス」に基づき多くの国で新自由主義経済政策が導入された。新自由主義経済政策によって政府の関与を減らし市場メカニズムに任せることで中南米各国は経済成長を実現した。

だが、民営化や貿易の自由化などで自国企業は競争にさらされ、失業者は増えた。もともと中南米各国の所得格差は大きいが、それがさらに拡大し、新自由主義経済政策の欠陥である所得分配問題が露呈した。この急速な経済改革が国民の反発を受け、その反動で1990年代終盤から2000年代には貧富格差解消を約束するポピュリストに魅了され、多くの南米主要国で左傾化がみられた。

チャベスのばらまきで「資源の呪い」の典型例に

その中でも最も過激な改革を推し進めたのが1999年に発足したベネズエラのチャベス政権であった。政権発足当初は投資誘致など穏健な経済政策であったが、2002年の軍部によるクーデター未遂以降は、企業の国有化など経済における政府の関与を拡大し、2005年からは「21世紀の社会主義」といったイデオロギーを掲げ、反自由主義政策を次々と導入した。2013年、がんで死去したチャベス大統領が後継人として指名した元バス運転手のマドゥロ大統領代行(チャベス大統領死去時の副大統領)が同年、大統領選で野党候補に僅差で勝利し大統領に就任した。

チャベス政権は原油価格をはじめ資源価格が高騰していた「コモディティスーパーサイクル」の恩恵を享受し、バラマキ政策を行った。政府は短期的に貧困率を削減し、「21世紀の社会主義」が効果を発揮しているように見えたが、根底では中長期的に経済へ悪影響が及び始めていた。つまり、チャベス政権下、「資源の呪い」は好調な経済の裏に隠れていたのである。

「資源の呪い」とは、天然資源が豊富な国で経済が資源に過度に依存し、資源価格が低迷するときには経済悪化をもたらすことがある現象だ。資源の呪いの経済現象のひとつがオランダ病だ。すなわち、原油産業の収益拡大が通貨高を生じ、輸入拡大そして輸出競争力低下など国内産業に悪影響をもたらした。マドゥロ政権下、チャベス政権のバラマキ政策や政府による経済介入を継続したが、政府債務拡大に加え、2014年末あたりから原油価格が下落したことで、ゆがんだ経済が浮き彫りとなった。

「資源の呪い」の影響を緩和するため、他の産油国は外貨準備高を積み上げたり、政府系ファンド(SWF)へ投資したり、資源価格下落に備えている。だが、チャベス-マドゥロ両政権はバラマキ政策を行ったことで、経済悪化時のための蓄えがないまま、コモディティスーパーサイクルの終焉を迎えてしまった。

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