総務省統計局が3月8日に公表した家計調査(二人以上の世帯)では、消費支出(名目)の前年同月比が+2.3%と高い伸びを示した。もっとも、この数字は額面通りには受け止められないようだ。2018年1月以来、不自然な形で調査先構成比が変化しており、自営業者などの勤労者・無職者以外世帯のウエイトが下がり、勤労者世帯のウエイトの増加が続いている。
日本の世帯主の職業構成が短期間でこれほど変わるとは思えないし、急に勤労者世帯が調査に協力的になったとも考えにくい。継続調査期間が終わって、新しい家計を調査対象にする際に、勤労者世帯を優先的に調査しているのではないか、と疑念を抱いている。
勤労者世帯の調査先数が増えることは統計精度の改善という点では望ましい。勤労者世帯は、世帯数が多く年齢や収入にバラツキがあるため、家計の実態を把握するにはより多くのサンプルがあった方がいいからだ。だが、調査対象の家計を「選別」しているのであれば、それは、調査方法の変更に該当するため、統計法上の手続きや対外的な説明が必要になる。
一部のエコノミストやネット記事からは、勤労者世帯の調査先増加は政権への忖度ではないか、との声が上がり始めている。勤労者世帯は勤労者・無職以外の世帯よりも消費支出が多いため、勤労者世帯の増加により消費支出額も増える。
国会ではたびたび、アベノミクスの成否をめぐってエンゲル係数が俎上にあがってきた。食料費を消費支出で割ったエンゲル係数を計算すると、2018年1月と2019年1月の比較では24.6から23.9へと改善しているが、これには集計世帯のウエイト変化による影響が含まれている。集計世帯の構成比が同じであるような調整計数が公表されないと、議論の方向性を間違いかねない。
統計精度の改善を目的としたものなのか、それ以外の事情によるものなのか。景気判断やアベノミクスの評価が問われているナーバスな時期でもある。家計調査の世帯主構成が変化していることへの説明と世帯主構成が同じだった場合の参考値の公表が求められる。
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