京都が「観光公害」を克服するための具体的方策 「オーバーキャパシティー」に打つ手はあるか

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アムステルダムにとって、オーバーキャパシティーは、コミュニティーの存続を揺るがすところまで進展しており、非常に大きな問題です。

そこでアムステルダムは、「総量規制」と「誘導対策」の両輪を回しながら、問題の緩和に取り組み始めています。

アムステルダムが行っている「総量規制」は、次のようなものです。

・民泊の営業日数の上限を年間30日に規制し、2018年には市の中心部での民泊を全面禁止
・加えて、中心部ではホテルの新規建設も禁止
・市内への観光バスの乗り入れを禁止
・中心地では観光客を目当てにした店の出店を規制

2017年には、目抜き通りに出店した観光客向けのチーズ店を、市が裁判にかけて閉鎖させましたが、店舗側は規制条例の適用外だと反発し、市側と衝突していました。

次に「誘導対策」としては以下のようなものがあります。

・大型クルーズ船のターミナルを、アムステルダム中央駅の近くから、北海運河の沿岸に移動
・観光バスの市内乗り入れを禁止。バスは幹線の外側に駐車して、観光客はそこから徒歩や公共交通機関、タクシーなどで市内に入る
・特典を付与したアプリを観光客に配り、彼らの動向をデータ化して、いつ、どこが混むかを分析。中心部の観光名所に人が密集しないように、周辺の人気スポットや飲食店を紹介、推奨する試みを開始
・アムステルダムから30キロ圏内にある「サントフォールト」のビーチを、「アムステルダム・ビーチ」に改称して、市域内という感覚を強調。市内の交通カードが使えるエリアに組み込んだ

アムステルダムと同様の「総量規制」は、バルセロナでもすでに始められています。例えば、2019年以降の新規ホテル建設の禁止や、バルセロナ大聖堂とその周辺での店舗の24時間営業を禁止することなどです。

こうした規制は、観光産業が持つ経済的なインパクトの低下という、マイナスの側面も併せ持ちます。実際にバルセロナでは、ホテルの新規建設の凍結が決まったことをきっかけにフォーシーズンズホテルなどの大手資本が撤退。その損失は雇用の消失とともに30億ユーロ(約3750億円)に上るとの試算が出ています。

日本が観光「亡国」にならないために

日本では、観光促進ばかりがいまだに追求されている感があります。しかし、アムステルダムやバルセロナの例を見てもわかるとおり、世界の観光先進国では、すでにそれがもたらす副作用をどのように捉え、その経済効果とどう調整を図るか、を検討する段階へと進んでいるのです。

現在では「観光公害」の事例が日本のみならず、世界中で見られています。対策を考えるベースはできているのです。日本もそこから習って、適切な解決策を取れるはずです。

『観光亡国論』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

なお私は「観光反対!」ということは、決して言っていません。むしろ観光による「立国」に大賛成ですし、今後もそのための活動を続けていくつもりです。

実際、インバウンドは日本経済を救うパワーを持っています。国際的な潮流を日本の宿や料理に吹き込むことによって、新しいデザインやもてなしも生まれていきます。観光の促進は、日本への理解を国際的に高め、日本文化を救うチャンスであり、プラスの側面は大きいのです。

ただし、それらは適切な「マネージメント」と「コントロール」を行ったうえでのことだと強調したいのです。前世紀なら「誰でもウェルカム」という姿勢のほうが、聞こえはよかったかもしれません。しかし、億単位で観光客が移動する時代には、「量」ではなく「価値」を究めることを最大限に追求するべきなのです。

そして日本も押し寄せる外国人観光客の増加に危機感を持ち、今すぐ備えなければ観光「立国」どころか、「亡国」となりかねない。それこそが今、著者が『観光亡国論』を執筆した理由にほかなりません。

アレックス・カー 東洋文化研究者

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Alex Arthur Kerr

1952年、アメリカ生まれ。NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長。イェール大学日本学部卒、オックスフォード大学にて中国学学士号、修士号取得。1964年、父の赴任に伴い初来日。1972年に慶應義塾大学へ留学し、1973年に徳島県祖谷(いや)で約300年前の茅葺き屋根の古民家を購入。「篪庵」と名付ける。1977年から京都府亀岡市に居を構え、1990年代半ばからバンコクと京都を拠点に、講演、地域再生コンサル、執筆活動を行う。著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、1994年新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社)など。

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清野 由美 ジャーナリスト

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きよの ゆみ / Yumi Kiyono

東京女子大学卒、慶應義塾大学大学院修了。ケンブリッジ大学客員研究員。出版社勤務を経て、1992年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、ビジネス、ライフスタイルを取材する一方、時代の先端を行く各界の人物記事を執筆。著書に『住む場所を選べば、生き方が変わる』(講談社)、 『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO 』(いずれも隈研吾氏との共著、集英社新書)など。

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