京都が「観光公害」を克服するための具体的方策 「オーバーキャパシティー」に打つ手はあるか

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オーバーキャパシティーがもたらす弊害は、いくつも挙げられます。

街には交通渋滞が引き起こされ、市民の生活に支障が出ます。旅行者にとっては、ホテル代の高騰という不利益も招きます。寺社、聖地などであれば、落ち着いて拝観できなくなります。神社仏閣の境内には深い精神性が宿っています。神の存在を感じる神社、仏の無言の静けさに触れるお寺。その奥深さこそが京都の神髄です。それが観光に侵されてしまうと、京都文化の本当の魅力が薄れてしまいます。

そしてこれらはまさに、私が警鐘を鳴らす「観光公害」の典型です。

観光先進国はどんな対策を取っているのか

一方で海外に目を向けると、世界的観光地の多くが、すでにオーバーキャパシティーに直面しているのも事実です。そしてその多くは「総量規制」と「誘導対策」という、2つのアプローチで対応を探っています。

「総量規制」とは文字どおり、観光客の数そのものを規制、抑制しようとするものです。「誘導対策」とは、ともかく観光客は押し寄せてくるものという前提に立って、数の分散を図る方策です。

「総量規制」として最もわかりやすい方策は「入場制限」です。ペルーのマチュピチュ、インドのタージマハル、ガラパゴス諸島など、入場制限をかけている観光名所はすでに世界に数多く存在します。

アドリア海に面したクロアチアのドブロブニクでは1日に4000人、ギリシャのサントリーニ島では1日に8000人を上限にしていますし、イタリアの世界遺産、チンクエ・テッレでは、年間150万人を上限としていて、1日の訪問者が一定数に達すると、この地に通じる道路を閉鎖しています。

ただ、島や狭い地域、場所であるならば、そこへのアクセスを閉じることで、観光客数を抑制できるかもしれません。これが大きな街の単位になれば、話はそう簡単ではありません。

アムステルダムでの「総量規制」と「誘導対策」の例

アムステルダムは、バルセロナ、フィレンツェ、ヴェネツィア、そして京都と同じように観光客のオーバーキャパシティーに苦しんでいる都市の1つです。

アムステルダムが行った観光客誘致施策は、2004年に市と観光業界が連携して始めたキャンペーンにさかのぼります。キャンペーンで用いられた「I amsterdam」というキャッチフレーズを覚えている人も多いのではないでしょうか。

オランダ中央統計局(CBS)によると、2017年にオランダに宿泊滞在した観光客数は、内外を含めて年間4200万人。これは市当局に届け出がなされているホテルなどの宿泊客数をベースにした数字であり、民泊への宿泊者は含まれていないので、実際はさらに上回ります。

オランダ政府観光局の調査では、そのうちアムステルダムを訪れた割合が37.8%ですので、約1600万人。これはアムステルダムの市街地人口の実に13倍に当たりますが、試算ではさらにこの先、観光客の増加が予測されています。

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