人口28人の集落で「ハラール食品」を作る事情 静岡・万瀬がインドネシア人一家を迎え入れ

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静岡・万瀬にある食品加工施設でハラール食品の製造を始めるインドネシア人一家と集落の住民(筆者撮影)

新東名高速道路を降り、自動車がすれ違うのも困難な細い山道を走って約30分。山肌にしがみつくように古民家が点在し、はるか彼方に遠州灘を見下ろす静岡県磐田市万瀬(まんぜ)の集落にたどり着いた。10世帯、28人が暮らす集落には、かつては水田や茶畑、みかん畑が広がり、子どもの遊び声が聞こえた。今、働き手のいなくなった畑は自然にかえり、ウグイスの鳴き声が時折響いている。

「このまま手をこまねいていれば、集落の名前が消えてしまう」。住民たちは危機感を募らせていた。公的な支援を活用して食品加工場や飲食施設を建設するなど、あの手この手で集落の活性化を目指したものの、万策尽きた。住民の減少や高齢化には抗えなかった。

そんな集落で、今月からイスラム教の戒律に従って処理されたハラール食品の製造が始まる。取り組むのは、現在浜松市内で飲食業を営むインドネシア人一家だ。使われなくなり、静まりかえっていた加工場に人が戻ってくるのである。

将来的にはモスクやイスラム学校の建設も視野

実は筆者はこの地域に1年前から足を運んでいた。インターネットの不動産会社のサイトで、古民家探しを始めたのがきっかけだった。現地に足を運び、いくつもの物件を見学させてもらった。 古民家の活用や地域興しに携わる「浜松山暮らし倶楽部」の代表、杉山道郎さんは「田舎への移住を考えている都会の人たちの多くが、決断するには至らない。田舎暮らし病みたいなものだ」と打ち明ける。

山脈にしがみつくように建つ万瀬にある民家(筆者撮影)

杉山さんら地元の人たちと出会い、空き家などの情報が入ってくるようになってきた。インドネシア人のハラール食品製造計画もその1つ。将来的には一家も近くに移住し、地元特産の和菓子をハラール認証で出荷するコラボレーションも計画している。近くの春野町にある約9000坪におよぶ遊休施設に、イスラム教徒が礼拝するモスクやイスラム学校、技能実習生の住まいを設け、コミュニティーをつくるとともに、インバウンドの場としても活用しようというアイデアも持ち上がっている。

こうした話が盛り上がったのは、地域を愛して走り回る人たちがいるからだ。万瀬のすばらしさや、生まれ育った故郷を残したいという住民の思いを知った杉山さんも、地元で使われなくなった飲食施設を今年4月に再開させようと準備に奔走していた。

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