職務中の交通事故で人生を狂わされた49歳男性

10円の出費さえままならない「絶対貧困」に

クニミツさんの職場では、次第に人間関係も殺伐としていき、彼が頼りにしていた先輩職員が退職。後輩たちからは「(介護業界には)もう見切りをつけたほうがいいんでしょうか」などと相談されるようになった。ベテランや若手の離職が相次ぐ中、職場が慢性的な人手不足に陥るのに時間はかからなかった。

クニミツさんら残された職員一人当たりの仕事量は増加する一方。周囲から「口数が減った」「食欲が落ちた」などと心配されるようになり、病院に行ったところメンタル疾患と診断された。結局、クニミツさんも特別養護老人ホームを退職。その後、半年ほど休養した後、ガイドヘルパーを派遣する会社でアルバイトとして働き始めた。

仕事中の交通事故で再び追い詰められていく

ガイドヘルパーとは、知的障害や身体障害のある人が外出する際にサポートや介助をする仕事のことである。時給制で、仕事のある月と、ない月で収入にばらつきがあるうえ、毎月の手取りは平均十数万円ほどと高くはなかったが、毎月約5万円の障害年金と合わせれば、暮らしていくことはできた。何より、同じ福祉業界での仕事でもあり、いまだに体調に波があり、フルタイムで働く自信はなかったクニミツさんにとって、働き方自体は合っていたという。

しかし、2年前、ガイドヘルパーの仕事中に交通事故に遭ったことで、再び歯車がおかしな方向に回り始めた。

事故は、利用者と一緒に横断歩道を渡っていた時に起きた。右折してきた乗用車にはねられたのだ。クニミツさんがとっさにかばったので利用者にケガはなかったが、自分は肩と腰を路面に強打。デニムの膝から下は破れ、血だらけになるほどのケガを負った。

ところが、救急搬送された病院での診断は、たったの全治10日。全身の痛みで起き上がるのもつらかったのに、その日の夜に警察の現場検証に駆り出された。さらに、加害者側の保険会社からは治療費をさんざん値切られたうえ、会社からは「今回のけがには傷病手当金は出せない」と告げられたという。

傷病手当金なしでは、そうそう休んでもいられず、無理して復帰したところ、今度は事故のフラッシュバックに襲われるようになった。「仕事で事故現場の近くを通ったり、救急車のサイレンの音を聞いたりすると、動悸が激しくなって、呼吸が苦しくなるんです。セダンタイプの車が目の前に迫ってくる光景がはっきりと思い出されるんです」。

次第にうつ症状が悪化。ついには自殺するしかないと思うまで追い詰められたという。

クニミツさんは「社会は厳しくて、冷たい」と訴える。一方で私は、彼の体験は理不尽だと思いつつも、「なぜ、傷病手当金を出さないのか、会社に聞きましたか」「警察には、現場検証に行くのは無理だと言ってみましたか」「フラッシュバックに悩まされていることを、どうして会社に伝えないのですか」などと尋ねずにはいられなかった。

次ページ問い詰めるつもりはなかったが…
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