元格闘家、古木はもう野球をあきらめたのか

トライアウト2年連続挑戦した古木は今……?

ある選手の引退試合で感じたこと

2013年のシーズンを終え、古木は来年、どうするか?迷っていた。3年連続となる12球団合同トライアウトを受け、日本球界への復帰を目指すのか? いや、そもそも、自分は来年も野球をやるのか??? 古木は迷っていた。

その頃、古木は、古巣の横浜DeNAベイスターズの試合を見に行く機会があった。それは10月8日に行われたシーズン最終戦だった。古木が注目したのは、小池正晃というひとりの男だった。小池は、横浜高校出身で松坂大輔のチームメートだった。そして、古木と同じ年のドラフトで、横浜に入団している。古木が1位で小池は6位だった。

小池は、今年限りでの引退を表明し、この試合は小池にとっての引退試合だった。そして小池は、なんと2本のホームランを放った。2本目は、現役最後となる打席で放った、まさに奇跡のホームランだった。多くの観衆に見守られながら、小池が、現役生活に終わりを告げた。

小池が、野球をやめた……。

一方で、もう4年も前に日本のプロ野球界から見切りをつけられた自分なのに、あきらめきれずにあがいてきた。そして、格闘技挑戦という回り道はしたが、再挑戦を決めた後は、文字どおり、死ぬほどの努力をしてきた。NPB復帰は果たせなかったが、独立リーグという小さい舞台ながらも、プレーをすることもかなった。

もう、いいのでは……。

もう野球をあきらめてもいいのでは……。

もう十分やったのでは……。

そんな思いを抱える中、2013年のプロ野球合同トライアウトの日が近づいてきた。

トライアウト参加を直前で止めた理由

トライアウトは多くの報道陣が集まる場であり、最近は観客も大勢詰め掛ける。自分が参加すれば、3年連続、4回目の挑戦となり、話題を呼ぶことは間違いない。

そんな注目の集まる場所を、自分の野球人生の最後の場としようか。小池ほどではないが、それでも、観衆とマスコミが集まるトライアウトを自分の引退の場としようか。ここまで頑張ってきたんだ。最後の最後にファンの前で、バットを置こう――古木はそんな思いで、トライアウトの参加を考えていた。

しかし、古木は、トライアウトの直前で、その参加を取りやめた。そこには、こんな思いがあった。

「トライアウトは、クビを宣告された選手たちが、人生を懸けて、生活を懸けて、戦いに臨む場だ。そんな彼らの真剣な思いがいちばんわかるのが、過去3回も挑戦した自分ではないか。それなのに自分は、自分の満足のためだけにトライアウトに参加しようとしていないか。 自分の参加動機は、真剣に挑戦している選手たちに失礼に当たるのではないか……」

2013年のトライアウトに、古木が姿を現すことはなかった。

古木は今、第2の人生で何をすべきか、模索している最中である。しかし、2009年に戦力外通告を受けてからの4年間。自分がやってきた努力は、自分がいちばんわかっている。この4年間は、決して無駄ではなかった。第2の人生……、その扉は、どんなに強固でも、古木はきっとこじ開けるに違いない。

(取材:林隆輔/遠藤宏一郎、文:菊野浩樹)

 古木選手のように、野球をあきらめきれない男たちと、その挑戦を支える家族の物語、「プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男たち~」2014年は12月30日(火)夜10時からTBS系列で放送(フェイスブックページはこちら)。戦力外通告を受けた選手の苦闘を描いた書籍『戦力外通告』は朝日新聞出版から発売中。

 

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