「空気を読まない」哲学が学校や企業を救う理由 日本の「道徳教育」はなぜイケてないのか

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古川:「雑談文化」というのは、非常によくわかりますね。大学でも、僕が学生だった頃は、授業の3分の2くらいはほぼ雑談というような先生が多かった。だけど、もちろんそれは単なる雑談ではなくて、知的な雑談でした。だから面白くて、僕なんか雑談目当てで授業に出ていました(笑)。

学生の知的欲求をすくいあげられる場が必要

古川:でも、これは大事なことで、今になってみると、大学時代に受けた授業の内容なんてほとんど覚えていない一方で、「あのときあの先生がこんなことを言っていた」という雑談の部分のほうは、かなり鮮明に覚えているんです。しかも、実はかなり大事なことを言っていたんだなと、今になって改めて思うことが多い。

その点、今の大学は、とにかく実用的な知識だけを計画的に教えよ、という締め付けがものすごくきつくなってしまって、そういう知的な雑談なんて、授業ではほとんどできなくなってしまいました。その結果として、実は知的なものに触れる機会、斎藤さんもおっしゃった「よくわからないけど面白そうだ」と思えるものに出会える機会は、昔に比べてものすごく少なくなってしまったと思います。

ただ、逆に言えば、そういう状況であるからこそ、知的なものに飢えている人も、潜在的にはかなり多くいるような気もします。そういう知的な欲求をうまくすくいあげられるような場を、学校や大学の外に、積極的につくっていくべきなのかもしれません。まさに今、私たちがここでこうして哲学や思想についてざっくばらんに話しているような、こういう場をもっと積極的につくっていけば、少しは何かが変わってくるのかな、という気もしています。

斎籐:今は哲学の入門書もたくさん出ているし、一般市民が参加できる哲学カフェのような場も少しずつ広がっていますよね。これが一過性のブームで終わらなければいいんですが。

古川:そうですね。ただ、他方で僕が感じているのは、哲学や思想の知識を、ビジネスパーソンの教養として身に付けておかなくてはいけないとか、純粋な知的好奇心で勉強したいとか、それはそれでいいことなんですが、できればそこだけで終わってほしくないということなんですね。

というのは、哲学というのは、やはり最終的には「生き方」に関わるものだと思うんです。自分自身の生き方。自分が何を大事にして生きていくのか。家族や友だちや恋人とどういうふうに関わっていくのか。会社や社会や国家に対して、どういうふうなスタンスで生きていくのか。そういうことを考えるのが、僕は哲学をするということだと思うんです。

例えば、若い人が会社でまったく使い捨てのモノのように扱われて、「俺の人生はいったい何なんだ」と思うようなことがありますよね。そういうときに、まさにそういう問題をこそ、真剣に徹底的に考えた哲学者や思想家が、過去にたくさんいるわけです。そういう哲学や思想を勉強することによって、自分が今どうしてこういう状況に陥っているのか、それはどこがどう間違っているのか、そういうことが論理的に解き明かされていって、それが自分の生き方や社会のあり方の模索へとつながっていく。哲学を学ぶ場を、そういう場へと発展させていければというふうに私は思っています。

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