ホスピスは、治療を目的とする病院とは異なる。「治療のしようがない」という前提で「心身の痛みをできるだけ取り除き、どう穏やかに最期を迎えるか」をケアする場所だ。ある程度の覚悟が決まっているとはいえ、もちろん死への恐怖や喪失感はつきまとう。
その苦しみを家族だけで話し合うのは正直難しい。そこで頼りになるのが、緩和ケア医のような第三者としての専門家の存在だった。
「初めての診察で、『たいていの方は、それほど苦しまずに穏やかな最期を迎えられますよ』と先生が優しく諭してくださって。私たちもすごく楽になりました。夫はストレスでほとんど声が出なくなっていたのですが、先生との1時間の診療でスーッと通るようになったんです」(満江さん)
尊厳死の意思表明に家族全員でサイン
家族会議を通し、秀雄さんはいざという時には、人工呼吸器や心臓マッサージを受けないといった、延命治療拒否の意思表明を文書にしていた。
「父が事前に作っていた尊厳死に関する書類を先生に見せると、先生は父の手を握り、『お気持ちは尊重しますよ』とおっしゃいました。父は随分ホッとした表情をしていましたね。それを見て私たちもこれでよかったんだと。私も母も、そのとき一緒に、同じように尊厳死への意思表明を作りました」(綾子さん)
その後、緩和ケア医を間に入れた「診察」という名の話し合いが何度も行われた。どんな治療やケアが必要か、体力の低下に伴うストレスや苦しみはどうか、状況を把握し、前もって心をケアしながら話を進めてくれる医師の存在が欠かせなかった、と綾子さんは言う。
「家族には遠慮して直接言い出せないことも、先生を通してなら父は話せた。そして私たちも父の希望を知ることができました」(綾子さん)
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