34歳女性が「父の自死」で母を恨み続けた理由 彼女にとっては"生殺しの地獄"だった

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「こっちは、『はぁ?』という感じです。なんで今まで黙ってたの? なんで自殺したの? 私の存在価値って? 私が何かしてあげられていたら、お父さんは死ななかったのかな? とか、私のほうはいろんな感情が渦巻いて、毎日死にたい気持ちで。1人では苦しさを抱えきれず、母に助けてほしくて一度だけ『死にたい』と言ったら、『お父さんも自殺したのにあんたも死ぬなんて、お母さんのことがかわいそうと思わないのか』と言われました」

おそらく母親も、自分を支えるだけでぎりぎりだったのでしょう。ずっと「言わなければ」と思っていたことをやっと娘に伝え、ほっとしてしまったのかもしれません。

しかし、家族の自死というつらさを味わったのは娘も同様です。大人ですら耐え難いつらさを、子どもに丸投げしていいのか。自分にもサポートは必要だったのに――。有紀さんはそう、振り返ります。

全国自死遺族総合支援センターのホームページには、こんなふうに書かれています。

「親を亡くした子どもたちの多くも、心に大きな痛み・傷みを負っています。(中略)外見上はけなげに元気そうにふるまっていたり、また周囲の大人は自身のことだけで精一杯であったり、子どもたちの 受けている衝撃、痛みは見過ごされてしまいがちです」

有紀さんは、ここに書かれたとおりの「見過ごされた子ども」でした。当時、母親は自死遺族の自助グループに1人で通っていたのですが、有紀さんを連れて行ってくれることはありませんでした。そこまで考えられる余裕が、なかったのでしょう。

医者でも誰でもいいので、有紀さんの母親に、娘も自助グループに連れていくよう助言してくれる人がいたら、どんなによかったかと思うのですが。

死んだ父親に対する罪悪感

大学に進んだ有紀さんは、心理学を学びました。授業ではたびたび、研究目的の心理テストを受けましたが、「毎回、うつ病と診断されてもおかしくない結果」が出ていたそう。

なお話を聞くと、有紀さんがわだかまりを感じているのは母親だけのようです。亡くなってしまった父親も、病気とはいえ子どもにしてはならないことをしたと思うのですが、それはまったく恨んでおらず、むしろ父の思い出は美化されているような。それはなぜなのか――。

「そうしないと、たぶん私がやっていけなかったんです。父親が脳死の状態になったとき、『このまま生きていたら、面倒を見続ける私たちの人生がなくなっちゃうんじゃないのか?』とか思ってしまったんですよ。そんな酷いことを思うなんて、と自分に罪悪感を持ったので、父に対する怒りにフタをしたんでしょうね」

父親が死んだのは自分が酷いことを思ってしまったせいではないか。実際にはまったく関係ないのですが、しかしその加害者意識は耐え難くつらいものだったため、彼女のなかで父親に対する感情が塗り替えられていったようです。

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