34歳女性が「父の自死」で母を恨み続けた理由 彼女にとっては"生殺しの地獄"だった

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「定期入れにアイドルじゃないおじさんの写真を入れているなんて、理由は1つじゃないですか。『マジ、気持ち悪い』と思った。『お母さん、このおじさんとセックスしているのか……』みたいな。でも『気持ち悪い』より前に、『私、捨てられた』と思ったんですよ。父親が亡くなってたった2、3年で、お母さんはお父さんを忘れられるんだ、って。お母さんは私をいらないんだなって」

母親の恋人の存在に、思春期だった有紀さんがショックを受けるのはまだわかるのですが、そこで「捨てられた」と感じるのはなぜなのか? 初めはぴんとこなかったのですが、話を聞くと、母親から何も説明がなかったことや、自分の気持ちを一切聞いてもらえなかったことが、大きく関係しているようです。

教えてくれないのは、否定されたのと同じ

「父親のこと(病気や死因)もそうでしたが、母親から言ってほしかったんです。『お母さんは今こういうわけで、この人とお付き合いしているんだけど、有紀ちゃんどう思う?』とかって。もしそれで私が『私はお父さんのことが忘れられないから、お母さんが別の男の人と付き合っていると悲しい。だから別れてほしい』と言ったとしても、それはそれで対処してほしかった。でも実際は、何の説明もなく隠したまま。母親の職場のサークルの合宿に私も一緒に行ったらそのおじさんもいて、何食わぬ顔で仲良くしている。

自分から聞けばよかったのに、と思われるかもしれないけれど、もし私から聞いて『有紀には関係ないから』とか言われたら、私(つらくて)死ぬなと思ったんです。母親から言ってくれないし、私の気持ちも聞いてもくれない、ということは私を拒絶しているということ。それに恋人をつくったということは、母は父のことをもう必要としていないわけで、私も必要としていないんだと思えました。私は父親と母親、2つ合わさってできている物体なので、父を否定されることは、私を否定されるのと同じに感じられるんです。

そんなことを考えているとだんだん、母はそもそも私を欲しくて産んだのではなかったのではないかとか、本当はお父さんのことも好きじゃなかったのかも、と思えてきて」

ウソをついたわけではないし、言わなかっただけ。おそらく親のほうは「大したことではない」と思っているのです。でも子どもは必要な説明を受けられないと、悪い方向に想像を膨らませ、自分を否定し、とてつもなく傷ついてしまうことがあるのです。

その後の母親の行動も、有紀さんにとっては、納得しがたいものがありました。なかでも忘れられないのは、第一志望の大学に合格したときのこと。通知を受け取り、はしゃいでいた有紀さんに、母親はなぜか突然「お父さん、自殺だったの」と告げて、大泣きし始めたのです。

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