トランプ対日本・EUの自動車関税交渉の行方 注目すべき「5月18日」からシナリオを考える

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報告書提出を受けたEUおよび日本の反応は酷似している。まず、報告書提出の翌日となる18日、ユンケル欧州委員長は独紙とのインタビューで「トランプ氏は自動車関税を当面課さないと私に語った。これは信頼できる約束だと考えている」と述べている。さらに、ユンケル委員長は、もし米国が欧州車に追加関税を課せば、EUは直ちに報復措置を取ると続けて、米国からの大豆や液化天然ガス(LNG)の輸入を拡大する合意を遵守する義務はないとの考えも示した。

過去の経緯をおさらいしておくと、昨年7月、ユンケル委員長とトランプ米大統領は会談を持ち、自動車を除く工業製品の関税撤廃や、米国産の大豆やLNGの対EU輸出拡大に向けて交渉を始めることで合意し、声明も出している。その際、「交渉中は今回の合意の精神に反することはしない」という約束も付されており、自動車への追加関税などは留保するとの判断が下されている。

しかし、今回の報告書提出を受け、ここまでユンケル委員長が予防線を張るということは、米EU通商協議において期限と目される「5月18日」までに何らかの合意に至る道筋は今のところほとんど見えていないのだと、推測できる。協議進展に不安があるからこその発言であろう。

5月18日までの決定は日程的に窮屈

日本もまったく同様の事態に陥っている。2月19日の閣議後会見で茂木俊充経済再生相は、報告書について「報道で承知しているが、内容を明らかにしていないのでコメントは控えたい」と述べた。そのうえで、日米両首脳が昨年9月の共同文書で「協議の間、声明の精神に反する行動を取らない」と合意した点にやはり言及している。「交渉中に追加関税が課されないことは、安倍晋三首相からトランプ大統領に確認し明確になっている」のが客観的な事実であろう。

要するに、日欧ともに「まだ話し合っている途中で追加関税を仕掛けられることはない。そう約束したのだから」という立場だが、「5月18日」までに対EU、対日本で米国の納得のいく通商協定が合意されず、約束が反故にされる可能性を不安に思っている、という状況である。

現状のところ、「5月18日」までに対EU、対日本で米国の納得のいく通商協定が合意される可能性は高いとはいえない。

周知のとおり、ライトハイザー通商代表部(USTR)代表を筆頭とする米国の通商当局者は対中協議に忙殺されており、それ以外の交渉に時間と人員を割けない状況だ。一部報道によれば、対中協議は注目とされる3月1日の期限には間に合わず、2カ月間の延長が検討されているという。そうなれば4月末まで、通商当局者は再び対中協議に拘束されることなる。そこで決着がついたとしても、5月に入ってから(18日までの)3週間弱で対EU、対日本との交渉をまとめることは、無理であろう。

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