トランプ対日本・EUの自動車関税交渉の行方 注目すべき「5月18日」からシナリオを考える

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3月1日までに対中協議がとりあえず落ち着いた場合(合意もしくは90日以上の大幅延長などに至った場合)、2月28日の米朝首脳会談(ハノイ)を済ませたトランプ政権は「5月18日」を念頭にいよいよ対EU、対日本との通商協議を検討し始めるだろう。

しかし、その場合でも協議期間は2カ月半しかないため、対EU、対日本のどちらかを優先せざるをえないのではないか。この際、おそらく優先されるのは日本である。既報のとおり、改元後、政府は新天皇に初めて謁見する国賓としてトランプ大統領を招く方針で、5月26~28日を想定している。このタイミングで日米首脳会談の開催もあるため、それまでには何らかの協定をまとめておきたいはずだ。そう考えると、3~5月は日米の物品貿易協定(TAG)交渉がにわかに山場を迎える可能性がある。

最もあり得る選択肢は「先送り」?

もっとも、日本を優先したとしてもTAG交渉が期限内に合意に至るのかどうかは定かではない。また、間に合ったとしても対EUの通商協定は未締結のまま「5月18日」が到来することになる。では、どうするか。最もありうる選択肢は「5月18日に大統領が輸入自動車への課税を決定し、6月2日から実施する。ただし、EUと日本は協議中なので除外」という展開だ。要は先送りに過ぎないのだが、そうした決定は一時的に市場の緊張感を和らげる可能性が高く、為替市場では円安・ドル高が進む可能性が高い。

しかしそうなっても、油断はまったくできない。そもそも巨大な対米自動車黒字を有するのはEUと日本である。2017年の米国の乗用車輸入を見ると、日本が20%程度、ドイツが10%程度を占めている。これらを対象外とする輸入自動車関税はトランプ大統領の本意とは程遠いはずだ。

輸入車への追加関税を留保した場合、二国間協議の場においてそれを補って余りある要求を突きつけられる可能性があると考えるのが自然である。重要なことは、前述のように、輸入自動車関税への課税というEUや日本が特に困りそうなカードをトランプ大統領が使わないはずはないということであり、この見送りを認める代わりに米国産品の輸入拡大を迫る展開がベースラインとして想定される。

ちなみに、過去の経験を踏まえれば、そうした貿易「量」の交渉が難航すると、米国は「価格」での調整を訴えかけてくる公算が大きい。「価格」に影響を与えるのは関税もしくは為替である。とりわけ技術的、政治的、産業的な調整が必要になる関税に比べ、為替は基軸通貨国ならではの即効性を持つ手段であるだけに、日本としてはその経路への波及だけは避けたいところである。

※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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