米中貿易戦争は根が深く、短期で終わらない 元・財務省財務官の渡辺博史氏に聞いた

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――欧州もイギリスのEU離脱(ブレグジット)やドイツの景気後退懸念など不透明感が強まっています。

欧州は統合の求心力が弱まる方向に行っている。共通通貨ユーロを採用しなかったイギリスはもともとEU内では異端児だが、ドイツも最近は力を失い、フランスのマクロン政権も混乱している。イタリアも政治的に不安定で、スペインは「選挙管理内閣」のようになっている。やはり(2021年の引退を表明した)ドイツのメルケル首相の指導力が失われた影響は大きい。昨年夏にギリシャに対するEUの金融支援が完了したが、ギリシャの「病気」が完治したわけではなく、今年中にも「再入院」が必要になる可能性がある。その時にやさしく迎えてくれる態勢がEUにあるかは疑問だ。

欧州中央銀行(ECB)の金融政策の変更はかなり遅れることになろう。昨年夏までは、2019年から量的緩和を終了して流動性を吸収する方向へ舵を切る姿勢を示していたが、それが遅れる公算が大きくなっている。(2019年10月に任期満了となる)ドラギECB総裁の後任がドイツ人になっても、そう簡単には動けないだろう。域内の経済成長率やインフレ率が鈍化している状況なので、引き締める必要性も低下している。

――ブレグジットの行方をどう見ますか。

唯一考えられるのは、3月29日のEU離脱期限を半年なり1年なり延期することだ。それをEUがのむかどうか。EUは制度的な中身の妥協はできないだろう。いいところ取りで離脱する前例をつくれば、他の国や地域への影響が大きいためだ。しかも、(離脱条件で焦点となる)北アイルランドの問題は金で片が付くような話ではない。最終的には北アイルランドがイギリスから分離独立するような事態すら想定せざるを得ない状況だ。今年はアメリカや中国、日本と比べて欧州が最も政治的にも経済的にも深刻だと見ている。

G20サミット議長国としての役割を果たせ

――日本経済については。

今年の日本の経済成長率(実質GDP成長率)は海外経済の減速を受け、1%をやや割っても、マイナスになることはないだろう。日本銀行の追加金融緩和に対する市場の期待が高まる可能性があるが、金融機関などへの副作用があっても効果はほとんどない。金融政策の正常化(出口戦略)もさらに先延ばしとなるだろう。2019年10月の消費増税の影響については、事前の駆け込み需要と増税後の落ち込みがほぼ相殺する格好になろう。為替に関しては、年初の1㌦=104円台というのは一夜の出来事であり、今年は109円を中心に106~112円程度で推移するのではないかと見ている。

日本企業や政府はあまりオタオタせず、マーケットの動きに過剰反応しないことが重要だ。過剰反応すれば、市場の混乱が雪だるま式に増幅してしまう。

――6月末に大阪でG20サミット首脳会議が開催されます。議長国として日本はどんな役割を果たすべきでしょうか。

たぶん何かが決まる場ではないだろうが、世界がいま直面している問題と、何が必要かを整理することが大事だ。また、日本が数少ないマルチラテラリズム(多国間主義)を推進する国であることを世界にアピールすれば、いいメッセージとなる。そういう場として利用することが重要だろう。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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