フリーランスと会社員、働き方の根本的な差 広がる「雇用されない働き方」の課題とは何か

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労働基準法第9条では、「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定していますが、具体的に労働者の判断基準は、下記の2つを総合的に勘案することで、個別具体的に判断されるものとしています。

1 使用従属性に関する判断基準
(1)指揮監督下の労働
 ①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
 ②業務遂行上の指揮監督の有無
 ③拘束性の有無
 ④代替性の有無
(2)報酬の労務対償性
2 労働者性の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
 ①機械、器具の負担関係
 ②報酬の額
(2)専属性の程度
(3)その他
(出所)厚生労働省「雇用類似の働き方に関する検討会」報告書[平成30(2018)年]

特別加入制度の枠組みを拡大へ

労働基準法上の労働者に該当するか否かが争われた裁判例としては、研修医、映画撮影技師、大工、NHKの受信料集金受託者などがあります。

厚生労働省は、雇用と自営の中間的な働き方を「雇用類似」と位置づけ、労働法制による一定の保護を導入する方向です。また、フリーランスの仕事中のケガや病気を補償する労災保険の適用や契約ルールの法整備について、2019年夏にも有識者検討会議で検討する方針です。

現在、フリーランスで働く人には、仕事中のケガや病気に関する公的な補償がなく、自ら対策を取って事前に備えておかない限り、貯蓄を切り崩して生活費を補う事態にもなりかねません。

そこで検討されているのが、労災保険の特別加入制度の枠組みを広げることです。労災保険とは、労働者が仕事中のケガや通勤途上で事故に遭ってしまった場合の負傷・疾病・障害・死亡等に対して保険給付を行う国の保険制度です。

この労災保険には、特別加入制度という仕組みがあります。これは、労働者以外のうち、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる人に、一定の要件のもとで労災保険に特別に加入することを認める制度です。

特別加入できる範囲に、「一人親方その他の自営業者」があります。ただし、対象者となる範囲は、原則として労働者を使用しない個人タクシー事業者や大工、林業、医薬品の配置販売など、非常に限られています。

本来であれば、労災保険の保険料は100%事業主負担となりますが、特別加入については、個人で全額を負担することとなり、事業の内容によって保険料率が異なります。現行では、IT技術者やデザイナーなど、増加しているクラウドワーカーが加入できる余地がありませんが、対象者の枠組みを広げることで、仕事や通勤中の災害でケガや病気になった際に、療養給付や休業給付などが支給される可能性が出てきます。

「働き方改革」による働き方の多様化は、「雇用されない働き方」にまで関心を高め、政府も次々に検討会を立ち上げています。今後、さらなる実態の把握と議論が進められていくものと思いますが、その動向に注目していきたいところです。

佐佐木 由美子 人事労務コンサルタント/社会保険労務士

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ささき ゆみこ / Yumiko Sasaki

グレース・パートナーズ株式会社 代表取締役。アメリカ企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。著書に『採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本』をはじめ、新聞・雑誌等多方面で活躍。グレース・パートナーズ株式会社の公式サイトはこちら

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