ANAが「未開の地」に相次ぎ就航を決めたワケ JALの猛追を受け、「攻め」の姿勢を鮮明に

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「オーストラリアで人気が高いラグビーのW杯が今年9月20日から始まるが、その前の9月1日からパース路線を開設できる。2020年に増枠される羽田の発着枠配分の結果にもよるが、(中期経営計画の最終年である)2022年までにチャンスがあれば」(林氏)、オーストラリア東部での路線拡充に挑戦するようだ。

一方のチェンナイ路線は南インドへの日本発直行便が初めてのため、パース路線とはニュアンスが異なる。これから成長が見込まれる地域で長期的に認知度を確保したいという狙いがにじみ出ているのだ。チェンナイには約1000万人が暮らしており、「現地の中間層が増えれば、日本への旅行が増えて定着する」(林氏)と先を見据えた就航である。有償座席利用率も初期は60%程度の見込みだという。

両路線に存在する不安

ただ、両路線とも不安は存在する。まず、パース路線はパースの日本における認知度が低い。ANAが想定する有償座席利用率70%はビジネス客だけでなく、日豪双方から一定の観光客が存在することが前提だ。今年のラグビーW杯、2020年の東京五輪まではオーストラリア西部から一時的な訪日ブームが発生するかもしれない。だが、東部に人口が偏るオーストラリアの西部で、毎日運航するだけの需要が続くかは疑問符が付く。

パース路線以上の課題を抱えるのがチェンナイ路線だ。有償座席利用率を60%程度としたチェンナイ路線について、林氏は南インドで1社のみの就航であることを前提としていた。しかし、ANAがチェンナイ路線開設を発表した数時間後、JALが成田―バンガロール間を1日1往復の毎日運航で2020年夏ダイヤまでに開設すると発表したのである。

これにより、日系エアライン唯一の南インド路線という構想は夢に消えた。さらに、チェンナイ路線はバンガロールへの乗り継ぎ需要も織り込んでいた。有償座席利用率6割という想定を実現するのは容易ではない。

そもそも、なぜANAはこうした不安のある「未開の地」に攻め入るのか。1つには、「8.10ペーパー」の存在が挙げられる。「8.10ペーパー」とは、2010年にJALが経営破綻し、公的支援で再建したが、この支援がANAとの競争をゆがめたとして、2012年8月10日に国土交通省が公表し、JALの新規投資や路線開設を制限した文書のことである。このペーパーが2017年3月末に期限を迎え失効した。

失効後、JALは世界各地のエアラインと「矢継ぎ早」の提携戦略を進めた。JALはJVや他社が運航する便の座席を買い取り自社の便名をつけて販売する「コードシェア」といった提携で、国際線拡大を急いだ。一方ANAは、収益をすべて自分のものにできる自社直行便の路線開設を優先している。2018年3月期決算では、売上高ではANAが1兆9700億円とJALの1兆3800億円を上回るが、営業利益ではANAが1645億円とJALの1745億円を下回っている。

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