【産業天気図・食品・飲料】消費低迷や値上げ効果一巡で一段と厳しさ増し、09年前半はとうとう「雨」に

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 08年10月~09年3月   09年4月~9月

食品業界の08年度後半は「曇り」、09年度前半は「雨」となりそうだ。消費低迷に加え、安心・安全問題への関心が高まったことで食品業界には緊張感が漂っている。

08年度の食品業界は、大手企業を巡る食品の安全・安心問題が多発した。事故米事件やニチレイ<2871>の冷凍インゲン毒物混入事件、丸大食品<2288>の中国産冷凍食品のメラミン混入問題、伊藤ハム<2284>の東京工場汚染水問題や、日清食品<2897>のカップ麺から防虫剤成分検出・・・など、業界に暗い影を落とした。09年度前半は、こうした緊張感に加え、値上げ効果が一巡することや、包装容器等の資材価格は相変わらず高い傾向にあること、消費が一層低迷することが見込まれ、一段と厳しい環境になりそうだ。

最悪な状況が続きそうなのが清涼飲料業界。08年度前半の“値上げラッシュ”に完全に乗り遅れてしまった。原材料価格高騰分を製品価格に転嫁することさえもできず、さらに夏場の天候不順も加わり、09年3月期は各社大幅減益に陥る。伊藤園<2593>は今期営業利益が前期比5割減に激減。ダイドードリンコ<2590>も同様に、営業利益が前期比5割減まで落ち込む見通し。全体的な原料市況軟化を受けて値下げ圧力がきている逆風下で、今さら製品価格を値上げすることは困難極まりない。09年前半も容器代などの資材価格は高止まりすることが見込まれるため、底ばいが続きそうだ。

調味料業界は、原材料高騰、国内製品値上げ失敗と円高というトリプルパンチを食らった。特に海外比率が高い味の素<2802>やキッコーマン<2801>は、予想を超える円高で今期は営業減益となる公算だ。09年度前半は、“胃袋縮小”で市場規模が縮む国内は良くて横ばい。海外での拡大がカギとなるが、楽観視できる状況ではない。

勝敗がくっきり分かれた業界もある。パン業界がそうだ。最大手の山崎製パン<2212>は勝ち組。小麦価格の高騰に対応する形で、07年度から3度の値上げを実施した。だが一方で、食パンなら少枚数タイプや、量は同じでも品質を落とした低価格製品を投入して、商品ラインナップを拡充。二極化する消費者の低価格志向をがっちり掴んだ作戦が効を奏し、今期は売上高も営業利益も好伸する。一方、下位メーカーの第一屋製パン<2215>は大手量販店のPB商品に押されるなど、値上げ後に数量が落ち込んだ。09年度はさらに厳しくなりそうだ。08年末に小麦価格が値上がりしているが、それに対する製品価格の改定を各社見送ったことから、来10年3月期上期は原価率アップは避けられない。さらに消費が低迷すると、カレーなどの節約系米飯食人気が一段と増すことなども予想され、逆風が強まりそうだ。

08年度後半の食肉・ハムソー業界は、前半から続いた原料の豚肉や鶏肉の市況高騰を背景に、日本ハム<2282>やプリマハム<2281>などの好調が続くと思われたが、ここへきて市況が軟化。08年度後半から09年度前半まで苦しい戦いが強いられるだろう。一方、中小の滝沢ハム<2293>や相模ハム<2289>も、低採算の大手量販チェーン向けPB商品の受託製造比率が増加で厳しい状況。加えて、08年11月に発覚した伊藤ハムの井戸水汚染事件で、業界全体のイメージが悪化し、歳暮商戦にも影響が出ている。この事件の影響がいつまで続くのか不透明なうえ市況軟化も重なり、09年度前半は業界全体が厳しい戦いを強いられるだろう。

ビール業界は08年度前半の値上げが順調に浸透し、麦芽などの原材料高騰を吸収。今期は大幅増益となる見込みだ。ただ、08年度後半以降は消費冷え込みのよる影響は免れず、たとえば最大手のアサヒビール<2502>は増収増益の期初予想から、減収増益に業績予想を修正している。キリンホールディングス<2503>も同様だ。09年度前半も総需要縮小のトレンドは変わらず、各社は広告費の削減など効率化を進めることで増益を狙うことになりそうだ。
 
 一方で、09年度前半も比較的好調が続きそうな業界もある。乳業業界がそうだ。07年度後半から原料高騰に悩まされた同業界だったが、今期は08年度前半からの値上げ効果が絶大な影響を与え、明治乳業<2261>、森永乳業<2264>、雪印乳業<2262>の大手3社はそろって営業増益となる見通し。さらに、各社が北海道に新設した国産ナチュラルチーズ工場が相次いで稼働したこともあり、チーズ市場が盛り上がりを見せている。少子高齢化で基本的に市場縮小が続く食品業界において、チーズ市場の成長は業界にとって追い風。09年度も国内原料の生乳価格は値上がりと、それに伴う牛乳の再値上げによるリスクが懸念されるが、それ以外の原料は低減することが見込まれ09年度も比較的好調が続きそうだ。

食品業界は比較的不況に強いとされるが、それでも規模拡大や合理化等を見越した再編の動きも出てきた。国内では明治製菓<2202>と明治乳業が経営統合を目指すほか、山崎製パン<2212>は不二家<2211>を連結子会社化する計画。一方、海外事業強化を視野にキリンホールも豪飲料会社の連続大型買収した。少子高齢化による国内市場低迷に追い打ちをかける消費低迷−−。09年度も厳しい環境が続くことは間違いない。
(佐藤 未来)

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