日本で不足、「セキュリティ人材」どう育てる 国内の大学では学べない現場で使えるスキル

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「日本の大学には、そもそもセキュリティの専門家を育てるという前提がない。だがウェールズでは、現場で使えるセキュリティのスキルを基礎から勉強できる。驚いたのが、学生が警察のデータを触っているということ。企業との結びつきも強く、教授が積極的にスポンサー探しをしている」(草場氏)

セキュリティ関連の事件対応を学ぶサウスウェールズ大学内の施設(写真:University of South Wales)

企業の中で存在感が強いのが、欧州航空機大手のエアバスだ。旅客機だけでなく軍用機も手掛ける同社としては、サイバー攻撃への対策は待ったなし。同社はウェールズのカーディフ大学と組み、人工知能(AI)を活用したサイバー攻撃の事前予知システムを共同開発している。また、サウスウェールズ大学の企業パートナーにも名を連ねる。

またスウォンジー大学には、太陽光による発電、蓄電、電力の活用の実証実験ができる施設が設けられている。スマートメーターなどを経由した一連のエネルギーシステムへのサイバー攻撃対策を、実際の施設に触れながら学ぶことができるのだ。

イギリス留学で専門家を育成

草場氏は昨年、一般社団法人・セキュリティ人材育成機構を発足させ、ウェールズの大学でサイバーセキュリティの学位を取得することを柱にした人材育成プログラムの構築を始めた。

「日本でセキュリティの専門家と呼ばれる人の多くはマネジメント層で、現場じゃない。そもそも“まとも”といえるセキュリティのスキルを持っている人は、専門の会社でも1社に1人程度しかいない」と草場氏は指摘する。“まとも”とは、サイバー攻撃と防御について理論と実践の両面で見識を持ち、1人で定型外の業務も行えるレベルだという。

学位取得を目指すプログラムの第1期生は現在5人ほどで、今年9月に現地大学への入学を予定する。企業でセキュリティに関するデータ解析に携わる人や、現役の学生も含まれているという。このほか夏期のみの短期プログラムへの社員派遣を検討する企業も出てきている。

機構では企業の会員を募集し、留学支援のほか、セキュリティに関するノウハウを共有するコミュニティも構築する方針だ。「将来的には年間100名を留学に派遣できる規模に提携校を拡大していく。2~3年後には優秀な高校生も送り出したい」(草場氏)。

知られざるセキュリティ先進国・ウェールズから、日本を率いるプロフェッショナルは生まれるか。草場氏の挑戦は、その試金石となるかもしれない。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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