育児をしたことがない人にはなぜバイトが「自分の時間」になるのか不思議に思うかもしれないが、乳幼児を抱える親にとって、子どもに振り回されずに一人で通勤し大人とやり取りをする仕事は時に「息抜き」になる。
和田さんの、バイトと兼業主夫の生活はそこから10年以上に及んだ。長女から4年後に生まれた次女は、生後4カ月から保育園へ。和田さんは映画館でポップコーンを売り、時に社会福祉協議会で子育て支援の臨時職員をし、またあるときはNPO法人などで9時から16~17時まで働くなどのバイトをした。
保育園や学童に娘たちを迎えに行くのは、もちろん和田さん。料理は妻のほうが得意で時間が許せば妻が担い、それ以外は和田さんが主夫として家事育児をこなした。
和田さんは、保護者会やPTAの会長、クラス委員なども務めた。会議で司会を務めて議題が時間通りに終わるように進行するなど、活動に多様性をもたらし、貢献もしてきた。「ママたちも気を使ってくれて優しいし、パパ一人だとちょっと違う意見を言うのも許されるような側面がある」。
次女が小学校3年生になり、自宅で留守番もできるようになった2年前、子ども好きが高じてフルタイムで保育所の園長や副園長を担うようになった。
「妻は組織の中で頑張れるタイプだし、看護師という仕事自体にやりがいを見いだしてやっている。ただ、家族の大黒柱としてプレッシャーはあったと思います。そうそうやめられないし、昇進も断れないなどあって、しんどい時期もあったと思います。そんな中、あなたもそろそろ(本格的に)稼いでねとも言われていた」と話す。
働く理由、妻はやりがい、夫は家計補助
外資系の保険会社でバリバリ営業をしていた金子さん(仮名、30代前半)。4年前に、同い年の妻とじっくり話し合ったうえで、自分が主夫になることを決断した。
長女が生まれたのは24歳の時。夫婦ともにキャリア形成期で、朝7時から夜7時まで子どもを保育園に預けて働いていた。
子どもの送り迎えや家事の分担、土日にも仕事が入ったり出張が入ったりすると、どちらが子どもの面倒を見るのか、もめごとが絶えなかった。職場の近くに引っ越すなどしてなんとか耐えていたが、ある時、娘が水疱瘡にかかり、保育園に預けられない週があった。2人ともがバリバリ働くスタイルに限界を感じ、いら立ちが仕事にも影響していることに気がついた金子さんは、「どちらかが働き方を変えるしかない」と、夫婦で話し合いをした。
「僕はフルコミッションの仕事で収入が上下し、気持ちとしてキツイなという感覚があった。妻のほうは、稼ぎや就労時間が安定していて、仕事にやりがいも感じていたんです。あと、妻は本人いわく家事が嫌いで、『家事をせずに仕事だけしていたい』。僕は家事は得意ではないけど、別に嫌いではないし、保育園行事や保護者会も苦ではなかった」
総合的に考えて、2014年末、金子さんのほうが仕事を辞め、昼間だけバイトや非常勤の仕事をするようになった。世帯主は妻。
周囲の理解は得づらかった。妻の親は「自分の娘が夫に家事や育児をさせていて、教育を間違った。恥ずかしくて人に言えない」という考え方だ。病院に子どもを連れて行けば「お父さんには(お子さんの)普段の様子はあまりわからないとは思いますが……」と言われてしまう。
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