新春にガツンと「レット・イット・ブリード」 ザ・ローリング・ストーンズの過激な時代

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ストーンズの自己改革という意味では、メンバーとレコード会社を変えるという以上に、音楽制作のスタイルを根本的に変えている点が注目されます。

これまでのストーンズは、基本的にバンド・メンバー中心の音創りでした。ゲストの参加は極めて限定的でした。しかし、『レット・イット・ブリード』では、上述のようにソウル歌手やロンドン・バッハ合唱団はじめ多彩な演奏家を積極的に導入しています。興味を引くのは、サキソフォン奏者ボビー・キーズの参加です。サックスの導入で格段に音の厚みが増します。以後、キーズは準メンバーとして長い付き合いになります。

「大音量で聴くべし」のメッセージは音盤に。ガツンとエネルギーをくれる『レット・イット・ブリード

そして、「無情の世界」で、オルガンとフレンチ・ホルンを担当したアル・クーパーにも注目です。この人は、ボブ・ディランの最高傑作「ライク・ア・ローリング・ストーン」でオルガンを弾いていたスタジオ・ミュージシャン。後年ブラッド・スェット・アンド・ティアーズを率いてアート・ロックの流れを引いた音楽家です。こんな猛者を使いこなしているわけです。

要するに、己を知るに至ったという事です。バンドとしての個性、演奏能力、表現したい音楽を冷徹に見据えて、外部の音楽家を自在に使用する術を獲得したのです。ここから、新しいローリング・ストーンズの快進撃が始まります。

過激な時代を象徴している

第3の理由: 時代と共鳴した音盤である

最後に、『レット・イット・ブリード』は、1969年という過激な時代に共鳴した音盤でもあります。発表されたのは12月5日でした。その翌日、ストーンズは全米ツアーの最終公演をカリフォルニア州中央部のオルタモント・スピードウェイで行いました。

実は、この公演は、オルタモント・フリー・コンサートと銘打って、ストーンズ以下、サンタナ、ジェファーソン・エアプレーンなどが出演。聴衆が20万から50万人とも言われていて、運営は混乱を極めました。結果、黒人の観客が暴走族ヘルズ・エンジェルスの警備担当者によって刺殺される事故が起きます。この模様は、映画『ギミー・シェルター』に記録されています。悲劇以外の何物でもありません。が、そんな出来事をも象徴する音盤です。

さあ新年最初の週末です。今も熱く鮮度抜群の『レット・イット・ブリード』で激動の2019年を駆ける力を頂戴しましょう。
 

小栗 勘太郎 音楽愛好家

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おぐり かんたろう / Kantaro Oguri

1958年生まれ。東京外国語大学卒。米国滞在7年余。音楽愛好家。ポップ、ロック、ソウル、ジャズ、映画音楽からクラシックまで幅広く聴く。現在、 西日本新聞に「音楽プラスα」、毎日フォーラムに「歴史の中の音楽」を連載中。著書に『音楽ダイアリー SIDE A』『音楽ダイアリー SIDE B』(いずれも西日本新聞社刊)。

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