クリスマスに寄せて―キリストの生涯を聴く クラシックとロックの傑作から

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クリスマスの夜、イエスの生涯に耳を傾けてみませんか(写真:zatletic / PIXTA)

12月の声を聴くと、年末に向けて、時間が加速度を上げて過ぎていくようです。師走とは、よく言ったものです。大晦日の1週間前、25日にやって来るのがクリスマスです。今や、宗教的な意味合いはさておき、年末年始のホリデーシーズンを彩る最重要イベントの趣です。元来は降誕祭とも呼ばれるナザレのイエスの誕生を祝うキリスト教徒にとって厳かな祝日です。

そこで、今週末に聴いていただきたい名盤は、キリストにちなんだ傑作です。1枚に絞るべきところですが、どうしても2つの作品を味わっていただきたいのです。1つは、ヨハン・セバスチャン・バッハの大作『マタイ受難曲』です。ユダヤ属州のローマ総督ピラトローマの命によってキリストが十字架に架けられるまでを描く音楽劇です。基本的なストーリーは、新約聖書の「マタイによる福音書」からとっています。

もう1つもキリストの最期の7日間を音楽で描いた作品です。アンドリュー・ロイド⁼ウェバー作曲の『ジーザス・クライスト・スパースター』です。ロックオペラの創世記を飾る傑作です。ロンドン・オリジナル・コンセプト・アルバムは、『キャット』や『オペラ座の怪人』前夜のウェバーの出世作。主役のイエス・キリストはわれらがイアン・ギランです。言わずと知れたディープパープル黄金期のリードヴォーカルです。

最先端の音楽によってキリストを描いた

イエス・キリストの生誕は、実際には紀元前6~4年の出来事だと考えられています。客観的な事実と宗教的な真実がつねに一致するとは限りませんが、イエスの弟子たちがイエスの教えを書き記したものが旧約聖書、さらに新約聖書と形を整えていきます。ローマ帝国で公認されたニカエア公会議が325年です。

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キリスト教をめぐっては、さまざまな出来事があります。世界史で教わった中には、ローマ教皇と神聖ローマ皇帝の力関係を如実に示すカノッサの屈辱やマルチン・ルターが主導した宗教改革があります。

いずれにしてもヨーロッパ社会において、キリスト教が果たしてきた政治的意義や社会的インパクトには絶大なものがあります。

そんな中でバッハが『マタイ受難曲』を初演したのが1727年4月11日。バッハ自身が音楽監督を務めていたライプツィヒの聖トーマス教会でした。243年後、アンドリュー・ロイド=ウェバーが『ジーザス・クライスト・スーパースター』を発表します。LP2枚組のフォーマットでMCAレコードから発表します。

表面的には『マタイ受難曲』と『ジーザス・クライスト・スーパースター』は、かなり違います。片や、「音楽の父」とか「ドイツ3B」などと称されクラシック音楽の権化とみなされているバッハが、正面から取り上げたものです。もう一方のロイド⁼ウェーバーは、ミュージカル作曲家です。時代が違えば、社会的状況も科学技術もそれらを前提とした経済システムも違います。

使用する楽器も、発表の態様も当然、異なります。しかし、そのような差異を超えて、両作品ともに同時代の最先端の音楽(器楽と声楽)を通じてイエス・キリストを描くという1点で共通しています。

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